青春編11話:工場長の推薦状

 ついに新製品の開発が完成し性能試験も終了した。

そんなある日、工場長に呼ばれて、北島君は当社に入って三年で与えられた新製品

も完成して今後どうしたいのかと聞かれた。

 鋳物業界は知っての通り不況業種で将来性がない。

 北島君の様な優秀な若者がいる所ではないかもしれない。

給料も、この三年ほとんど上がってない。

 年収三百万円では結婚して嫁さんを食べさせるのも厳しいだろうと言い悪い事は

言わんから若い内に将来性のある業界へ転職したら良いと言ってくれた。

 ありがたいアドバイスだった。その為には全面的に協力すると言ってくれた。

 北島も将来の事を考えると転職を考え始めていた時期でもあり工場長に

新聞広告で良い会社があったら面接を受ける旨を話した。

 その後雑談して、どんな業種がいいですかねと聞くと工場長も化学出身であり、

況にも強く給料の良い業種と言えば医薬品だろうねと話してくれた。

 翌日から新聞の社員募集の欄をしっかりとチェックしていた時ある製薬企業で

社員募集をしている広告が目に入った。

 大卒、年齢二十四歳まで就職経験者の応募可能と書いてあった。

 ダメもとで就職希望の書類を送付し翌週に返事が来た。

 多分駄目だろうなと半分あきらめてていた。しかし高専卒で三年の職務経験も

評価してもらえた様で来月、東京で一次試験と面接に来るようにと手紙に

書いてあった。

 翌月、東京の新宿の支店で筆記試験と午後に支社長面接を受けた。

 筆記試験は一応、再度、勉強して臨んだので、ある程度の自信はあった。

 そして午後の面接で面接官から、今いる会社での三年間の仕事を聞かれ正直に、

新製品開発の経緯を順序立てて説明した。

 北島君は、なかなか面白い経歴の持ち主だねと言われ思ったより好反応だった。

 そして最後に北島君が会社に望む事は、と聞かれて働いた分の給料を

いただければ、それで十分ですと答えると面白い事を言うねと言われた。

 その発言は、これからの仕事に自信を持っていると理解していいんだねと

笑いながら聞いてきた。そこで、もちろん全力で仕事をするだけです。

 そして、その結果を評価して頂いて、給料をもらうだけですと答えた。

 やる気十分だと考えていいんだねと笑いながら聞いてきた。

 評価を下すのは上司ですから期待に応えられるかどうか、やってみなかれば、

わかりませんと答えた。ユニークな考え方で面白い男だと面接官の反応だった。

 北島としては自分の考えを言う事しかできないし、それで駄目なら次を

当たるだけと考えていた。

 数日後、一次試験合格通知が届いた。その手紙を工場長に見せて、お礼を言った。何とか、この会社に入れるといいね

と言ってくれた。そこで工場長が北島に推薦状を書いてあげようと言ってくれた。ほんとですかと言い、それはありがたい、

是非、お願いしますと頭を下げた。ただ、これは工場長の独自の判断だから他言はするなと言うのだった。もちろん了解した。

 一週間後、本社での二次試験、二次面接に、その推薦状を携えて臨む事となった。二次試験は十人が受験しに来ていた。二次面接では社長自らの面接だった。

 まず挨拶すると社長は君か面白い男がいると話題になっている人は、

といきなり言ってきた。

 そして、おもむろに工場長に書いてもらった推薦状を提出した。

 すると社長が、その封筒を開いて、じっくり目を通してくれた。

 ビックリした様で推薦状持参で入社試験にきたのは君が初めてだよと笑い出した。

 最後に北島君の当社での抱負を聞きたいといわれたので抱負は特にありません。

ただ頑張って仕事をするだけです。そして自分の能力で、どれだけ売れるかです。

 その実績を評価するのは会社側ですからと答えた。ひねた新人だねと

大笑いしていた。

 社長から頑張って売上を上げて欲しいね期待しているよと

笑いながら言ってくれた。

帰って工場長に、その話をしたら採用されたかもしれないよと言われた。

 社長が、お手並み拝見と言うのは、好印象だという事だよと教えてくれた。

 翌週、ついに採用通知が届いた。そして数日後に会社の研修施設で、

三ケ月の薬剤、医療関連を学ぶ研修会が行われる事が書いてあった。

なんか、、奇跡的というべきか、とにかく信じられない程のうれしさだった。 

 その晩、実家に電話をして転職の話をした。翌週、お世話になった

工場の皆さんや推薦状を書いてくれた素晴らしい工場長に、

お礼をのべて会社を後にした。

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