青春編9話:ヤクザ屋さんが工場に入社。
それは、夏の暑い日。突然、我が工場に、デカいアメ車が入ってきて、
車からサングラスをかけて、めっぽう怖そうな大男が降りてきた。
工場の従業員は大慌てで、工場二階の工場長の部屋へそれを伝えに来た。
そして工場の庭に出てきて工場長が彼に話かけたら、この工場で雇ってくれと
言ってきた。
そこで工場長が履歴書を書けば面接はしますよと答えた。彼が履歴書、
そんなもんないよと言った。
それなら採用できないと言うと、そこを何とか頼むよと言いだした。
そのうち、こういう奴には北島さんに話してもらった方が良いよと周りの
従業員たちが言い出したらしく、北島が現場に参上した。
その場に行くと彼が兄ちゃんからも頼んでくれないか言ってきた。
少しして工場長が、ちょっとやる仕事があるから、後は頼むといなくなる
ではないか、仕方なく、とにかく話を工場の食堂で聞いた。
冷たい麦茶をだして話を聞くと彼は組の者に追われて逃げ回って、
やっと、ここへたどり着いた言う。
金が底をついたから何とか働いて暮らしていかなければならないので
仕事が欲しいと言うのだ。
素人さんには絶対手を出さないと言う事や頑丈な身体で給料以上の
働きは絶対にするからと言う事を話していた。
だから何とか働かしてくれと言ってきた。特に絶対に他人に迷惑は
かけないと言う事を強調していた。
そこで北島が、その約束を破ったら警察に突き出すと真剣なまなざしで
ドスのきいた低い声できっぱりと言った。
わかったよ兄ちゃんと言ってきた。彼が何とか雇ってくれと言うので、
掛け合ってみようと伝えた。
もし喧嘩したら、ただじゃ済まない事は肝に銘じておけと思いっきり
怖い顔してドスのきいた声で言い放った。
わかったよ、言う通りにするよと、言ってきた。そこで工場長に話の
一部始終を伝えてた。
何かもめ事があれば警察を呼ぶと言う条件付きで採用した。
それを彼に伝え空いてる社宅の一つを使わせる事にした。
彼は兄ちゃん恩に着るぜ、もし何かあったら力になるぜと言った。
あのね、何かあったら困るんだよと笑って答えた。
そして彼が暴れたら即刻クビで警察を呼ぶと言う条件付きでの採用だと
言う事をしっかり話しておいた。
社宅の件も話すと兄ちゃん、ありがとう恩にきるぜ地獄に仏とは、
こういう事を言うんだなと殊勝な事を言っていた。
その晩、風呂上がりにビールを飲むと彼はニコニコして喜んでいたが、
いちいち背中をたたく癖があるらしく翌日、背中が赤くなっていた。
それからと言うもの彼は妙に大人しく礼儀正しく朝早く起きて出勤してくる人
全員に毎朝、お早うの挨拶をした。
何せ怖い顔なので早足で自分の持ち場に入る従業員が多いのには笑った。
工場の職長に紹介して仕事を教えてやるように指示した。一週間が過ぎ、
すっかり職場に慣れてきた様で、社内でもよく働くし力持ちなので重い物を
運ばせたら彼にかなうものはいないとまで言われるようになった。
数ヶ月がすぎて彼は特に大きな問題も起こさずに働くのだった。
寒くなってきたある日、彼が、たまには兄ちゃん飲みにでも行かないかと
言い出し、クリスマスでもあるから近くの町まで彼のアメ車で行く事にした。
そして地元のスナックでメリークリスマスの乾杯をして飲み始め、
カラオケで歌い始めた。
彼は柄に似合わずプレスリーを歌い、これには驚かされた。監獄ロックから
始まり数曲プレスリーの曲を歌った。
北島はサイモンとガーファンクルをの歌を歌うと兄ちゃん良い曲だねと言った。
そこで兄ちゃんは、やめろと言い、北島さんと呼んでくれと頼んだ。
しらふのうちは北島さんだったが、酔いが回ってくると、
また例の兄ちゃんが始まった。
そして彼が歌ってる時に、酔っ払いが、ふらついて、ぶつかってきた。
最初、興奮して胸ぐらを摑みそうになったが、おっちゃん気をつけろよなと
いって、ふらついた身体をしっかり押さえた。
その酔っ払いは、びっくりした形相で、すぐ、その場を立ち去った。
そして不思議な事に店に来てる女の子をナンパするでもなく静かに飲んでいた。
そこで、いろんな話を聞く事ができた。若い頃さんざん馬鹿して喧嘩して
女を泣かしたり取り合ったり悪い事は、ほとんど、やり尽くした。
でも俺は、この世界にゃ向かない事が良くわかったんだと話してきた。
本当にワルになれない自分がいるんだよ。だから最後の、ここ一番という所で、
情けをかけちゃうんだ。
でも、そう言う半端者は、この世界じゃ生きていけないのさ、
だから追っ手が俺を捜し回っているんだと言っていた。
何か、わかるような、わかんないような話だったが、妙に、親近感の
持てる男だと、思えるのが、おかしかった。
帰ろうと言い代行を頼んだ。勘定済ませて帰ろうとした時、彼が兄ちゃんに
払わせたら、お天道様に笑われるといいだした。
それじゃ頼むと言い、外で待った。少ししたら彼が出てきてた。
その後、代行の車がやってきた。
そして代行の若者が、こんな大きなアメ車、始めてだと喜んでいた。
コラムシフトのオートマチック、すげーな、と驚いていた。
彼が良い車だろうと誇らしげに、いろいろと車の事を話していた。
年が明けて翌年の一月の中旬の寒い朝、ついに事件が起こった。
やくざあがりの彼が急に姿をくらましたのだ。
彼の外車と共に煙の様に、消えてしまった。
その事件は、工場内で、やっぱりなー程度で済んだが、その月の月末に、
ガソリンスタンドや、飲み屋から、彼のツケの分の取り立ての電話が鳴った。
飲み屋が、二ケ月分で三万円、ガソリンスタンドは、一ヶ月分で一万円、
合計四万円の請求。
工場長に相談して彼が一月、中旬退職だから半月分の給料から、
その分を払う事で解決できた。
こんな小説になりそうな事が、実際に起こるとは夢にも思わない北島だった。
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