青春編8話:工場での面白い騒動

 こんな工場でもいろんな騒動が起きた。最初に思い出されるのは工場の四十代の

発送部長とパートのおばさんの不倫事件。

 発送部長の奥さんは、同じ職場で、庶務・経理・事務をやっていた。

 その問題となったパートのおばさんは北島が見ても工場一の美人だった。

 特に、その色気は、すごく脇を通り過ぎるだけで甘い香水と色気で、

ほとんどの男どもが振り返る。

 ある日、発送部長が、運送屋さんの所へ運賃交渉に行って留守の時に

問題が発覚した。

 発送部長の車に、そのパートのおばさんが乗っているのを見たという

近所の人が現れたのだ。田舎では、そんな噂は、すぐ広まる。

 後でわかったのだが仕事途中で人里離れたモーテルで逢瀬を重ねていたのだ。 

 噂が奥さんの耳に入って怒って、発送部長を工場中、追いかけ回した。

 工場長が発送部長に事の真偽を聞くと俺はそんな事はしていないの

一点張りだった。

 奥さんは旦那が精力絶倫で、やりかねない人だと疑ってかかって犯人扱を

していた。その騒動で、あの色っぽいパートのおばさんが退職した。

 これには北島や若い男性達は残念がっていた。工場のアイドル的存在が

いなくなると仕事の一つの励みがなくなった。

 そして数週間が過ぎ、あの騒動の話も忘れ去れようとした時に次の事件が起きた。 発送部長と、あの色っぽいおばさんが同時に行方不明、夜逃げだった。

 近くの警察のおまわりさんまで出てきて捜索に駆り出された。

 こういう時には、いろんな噂話が、まことしやかに、広まるもので面白い噂が

飛び交った。駆け落ちして海外逃亡。または都会で潜伏してるとか中には

心中を図ったのではないかとかいろいろあった。

 実際に近くを流れる利根川と江戸川を警察が調べた様だが

死体は上がらなかった。近所の電信柱に尋ね人の張り紙まで出た。

 数ヶ月して突然、彼らの消息がわかった。

それは発送部長が金が底をついて電話で奥さんに泣きついてきたのだった。

 パートのおばさんも無事見つかったが、彼女は、これが元で亭主に離縁されて

東京の方へ流れて行き水商売をして生活をする様になった。

 発送部長はさすが、もと営業マン、奥さんに手をついて土下座して、

あやまり、時間がかかったが、元の鞘に収まった。

 しかし、その後は、しっかり手綱をしめられて一週間の小遣いしか、

もらえなくなったそうだ。

 さすがに、これでは何もできないであろう、うまい、兵糧攻めである。


 次の騒動は、お見合い事件。

 この工場の周辺は農家と商売人の家が多く、専業サラリーマンは少なく、

ほとんどがサラリーマンとの兼業農家。

 その為、この地域の女の子の多くが都会に出ていくか地元の大規模農家か

商店の男子と見合いをして結婚するケースが多かった。

 そして近くの商売人の家から、我が工場の大卒、高専卒の技術屋さんに

見合いの話が年に数回、舞い込んできた。

 山下先輩は既に三回経験したが、話が合わないので、お断りしたそうだ。

 そんなある日、北島に見合いの話が、まい込んだ。

 お相手は、地元の農機具販売店会社の娘(二十一歳、短大卒)。

 工場長から言われた話なので、むげに断れず見合いとなった。

 その当日、その娘の父親が外車で工場を訪ねてきて北島を乗せて近くの

高級料亭で、その娘と会った。

 始めて会った印象は気の強そうな気位の高そうなタイプで好きなタイプ

ではなかった。

 体型も北島の好きなグラマー系ではなく細くて足の短い

典型的な日本人体系だった。

 工場長と北島が、ご両親と面会して、ありきたりの会話を始めた。

 そして彼女の父が家の跡取りが、欲しいのでぜひ手伝って欲しいと言いだした。

 あまりの強引さに、まだ彼女に初めて会ったばかりなので、そんなに急に

言われても、困ると答えた。父親も、そりゃそうだと言って笑った。

 こんなに強引に結婚させたいのには何かあるなと北島は察知した。

 その予感が後になって見事的中する事が起きた。

 初回の見合いでは形式通りの話し合いで二時間程度で終了した。

 一週間後、近くの駅の喫茶店で、デートをする段取りまで彼女の父親の策略で

計画されていた。

断る理由もないので会う事にした。デートの当日、彼女は白いブラウスと

空色のスカートで現れた。北島は、めったに着ないスーツを着ていった。

 天気の話から入り少し雑談した後に、彼女が、なぜ見合いに、いらしたのと

聞くので工場長に世話になってるから断れなくてというとニヤッと笑った。

 そして続けざまに、彼女に、あまり興味がないと言う事ねと続けた。

 誠に失礼ながら北島のタイプではないと、はっきり言うと安心した様に、

あー良かったと言うではないか、これには、北島も怒りを覚えた。

 良かったというのは、どういう事ですかと、きつく言った。

 彼女が、あなたこそ「タイプじゃないと言ったじゃないですか」と反論してきた。 そのうちに何かおかしくなって、お互いに笑い出した。

 そして北島が彼女には、彼氏がいると言う事ですねというと、お茶目に、

その通りだと言ったのだ。

 その彼氏は父の会社に出入りしている農機具メーカーのセールスマンだそうだ。

 彼は、いい人何だけれど気が弱く、やさしい性格で営業には向いてないし、

父の最も嫌いなタイプだと言った。

 更に彼女は話を続けて、彼は彼女が、いなきゃ駄目なのと言う有様だった。

 彼女の方が彼に惚れてんじゃないかよ、と心の中で叫ぶのだった。

 こりゃ駄目だ、こんな茶番劇につき合っては、いられないと思うのだった。

 そこで北島は彼女にどうしたら良いのですかと聞くと、さっき北島さんが言った

言葉、娘さんは好みのタイプではないと、言えば良いのよと笑いながら答えた。

 わかった早速明日、工場長の方から、その様に伝たえてもらうよと返答した。

 その後、彼女は胸のつかえが取れたのであろうか、晴れ晴れとした顔にもどった。翌日、工場長に断りの電話を入れてもらった。

 その数週間後、北島と見合いをした娘さんが誰かさんと駆け落ちして

姿が見えなくなった。心の中で、

 彼女に、うまくやれよと、励ます北島だった。

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