青春編6話:入社と退社と農村に就職

 高専を卒業して学校推薦の大手化学メーカーの研究所に就職できた。

 その研究所は家からバスを乗り継ぎ六十分。

 仕事は、あらかじめ年間計画が立っていて決められた実験を同じ手順で行い

報告書を提出するだけであり北島の考えを差し挟む所は全くない。

 そして午前十時と午後三時のおやつ休憩30分づつ、まるで幼稚園。中でも

一番気に入らなかったのは研究員の女性達、目を見張る様な美人、

色っぽくいい女が一人もいない。

 働く意欲を失うのに、そんなに時間が、かからなかった。

 特に嫌だったのは全く実力を発揮する場所がない事だった。

 入社後、飲み会に誘われ様になり参加すると最初は一番エリートだと

自画自賛してるグループの歓迎会で新人たちを見下した態度が気にいらず

以後一度も行く事はなかった。

 数日後また、別の飲み会に誘われ、これは第二グループだった。

 その他に別のグループにもさそわれた。

 第三グループでは、みんなで結束して地位向上を図っていこうと訳の

わからない事ばかり言う変なグループだった。 

 要するに学閥の仲間に入れてやるというのだ。

 そんな事には全く興味がないというよりも反吐が出るような連中の話が

嫌でたまらず半年位して、学校推薦入社の会社に、辞表を出すという、

傍若無人な行動に出た。

 退社後まもなく第一次オイルショックがおこり、就職活動は超氷河期になり、

良い条件の就職先がなくなった。これが天罰なのかと落ち込んだ。

 何とか就職できた先は大手印刷会社の子会社でインク製造の職場。

 その当時ブラック企業ばかりで、この会社も月の残業時間が二百時間を

ゆうに超えていた。つまり、毎日、夜十二時過ぎても働かされたのだ。

 同期の高専卒の連中で、北島が十一ケ月働いたのが一番長く、数か月ごとに

同期の仲間が辞めていった。

 北島は体力だけは自信を持っていたが二回目の検診で血尿が見つかり入院した。

 退院後、上司に呼ばれ残業ができなければ辞めてくれないかと言われる始末で

嫌気がさし、すぐ退職した。

 その後、新聞広告を見て次の会社に就職した。そこは関東の郊外の鋳物関連の

化学製品メーカーで社宅付きという条件で入社した。

 その会社には大卒の機械専攻の先輩が2人が機械のメンテナンスを行っていた。

 技術課長の六歳年上の山下先輩。機械修理担当の木下先輩。

 化学専攻の大卒の十歳の年上の八木工場長が製品検査をしていた。

 北島の使命は新製品を三年以内に開発する事だった。

 実験の計画、化学薬品の購入、管理も、全て任せると言われ、

非常にやりがいがあると思い入社した。

 その後は、いろんな材料の素材の性能試験を最初に半年間で行い

次に材料を混合できるか調べた。混合物の性能試験で半年。

 一年過ぎた頃、新製品候補が、五種類出来上がった。

 今度は、その、燃焼試験(性能試験)をして、三種類までに、最終候補を

絞り込み、新製品を世に出す計画だった。さて仕事以外の話もする事にしよう。

 この工場は、千葉の田舎で最寄りの駅まで車で30分以上という陸の孤島。

 その工場敷地の中に研究室と三軒長屋と別棟一軒の四軒の木造の社員社宅が

あり、別棟に技術課長の六歳年上の山下先輩が暮らしていた。

 機械修理担当で三歳年上の木下先輩が北島の隣の部屋に住んでいた。

 山下先輩は東京六大学出身で訳あって夜学を卒業した。

 コックのアルバイトも経験していた様で料理がとても上手で休みの日には

ポークソテー、ビーフカレーとか旨い料理をごちそうしてくれるのが楽しみだった。

 離れの社宅は三部屋で妻帯者用としてつくられおり、その六畳の部屋に麻雀台と

四つの椅子を買って来て仕事を終えた後、休日に麻雀をして楽しんだ。

 その時は、十二才年上の、この工場唯一の営業担当、坂井先輩が得意先から

帰ってきて、よく参加していた。

 本社から来る、いけめんの本社の営業部長も誘った。

 これが一番の息抜きになった気がする。

 麻雀の腕の方は山下先輩が飛び抜けて強かった。

 彼の性格通り几帳面な打ち方で相手がリーチをかけると、うまく逃げたし

調子の良い時は、強気で、うってくる。

 次に楽しかったのは町内野球大会。年に四回、春夏秋冬に行われた。

 この地域では野球が盛んで、広い原っぱが多く、練習場には困らない事で、

野球が盛んになったのだろう。

 そして、その二人の先輩と工場長に訳ありの若手二人、運送担当の人、

近所の人など、九人をかき集めて町内の野球大会に出場していた。

 しかし強くはなく最高でも三回戦までだった。

 工場は従業員が約三十名うち女性がパートも含めて五人。

 特に高齢者の兼業農家の人が多かった。その為に野菜、果物をたまに

差入てくれるのが楽しみだった。

 訳ありの若手が二人おり軽い知的障害を持っている若者だった。

 塩尻君、二十代後半で、ぽっちゃり体型でエロ、スケベとか呼ばれる位の男で、

お金が貯まると近くの町のソープランドへ行くのが唯一の楽しみで、

発送係のパートの若めのおばちゃんの尻を触ったり胸を触ったりして、よく、

ひっぱたかれていた光景が微笑ましく思い出されてくる。

 人は良いのだが、こすっからい所があり、悪るっぽいのだが、賢くないので

企みが、すぐばれてしまう。 

 ただ気が小さく、びびりで大きな事は、起こせない、かわいい、悪ぶってる

兄ちゃんといった感じであり、みんなに、からかわれていた。

 もう一人は十代後半で、良い子で挨拶もするし、常に笑顔の好男子だったが、

しゃべるのが苦手で、よく馬鹿にされて口で反論できないので、真っ赤な顔を

して悪口を言った人を追いかけまわしていた。

 お母さんが大事に育てていて躾もできており障害さえなければ

普通に働いて家庭をもてたであろう愛すべき男の子だった。

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