青春編3話:工専での生活と牧師の息子との思い出

 念願の工専での生活が始まり北島は希望に胸を膨らませた。

 入学して制服代やバスの定期券など高額の出費で親に申し負けない気持ちで一杯。

 入学後は心身を鍛える目的で柔道部に入った。朝七時に家を出て八時半に学校へ

夜六時半に授業終了。 

 夜七時から九時まで柔道の練習。帰りの途中で、どうしても腹が減った時は

乗換のバス停近くの屋台のラーメン屋で腹を満たした。

 実は運動部の学生はいつも、お世話になっていた。

 そして大食漢の学生を見ると店主がラーメンの量を無料で増量しくれるのだ。

 これには涙が出る程うれしかった。

 そして家に着くのは十時過ぎという生活が始まった。疲れすぎて風呂に入って

眠りそうになる日々の連続。

 土日に家庭教師のアルバイトをしながら何とも忙しい日々たっだ。

 夏休み冬休みで柔道部の合宿の合間に船の荷受けや工場の重労働など

高収入のアルバイト。

 入学して一年して家からバスで二十分、通学の途中の所にある教会に

興味もを持ち立ち寄った。

 その教会で毎週一回、無料で英会話教室を開いているのが目にとまり、

行く事に決めた。そして、そこの牧師の息子と仲良くなっていった。

 英会話教室を終えた後にコーヒー、紅茶、見たこともないパンケーキ、

ハンバーガー、ポテトフライ、ステーキなどをごちそうになった。

 そして土日に待ち合わせて元町、本牧などで遊んだ。旨い料理や素敵な

音楽に舞い上がっていった。

 アメリカ人の友人にとって柔道が興味深かった様で、いろんな技を

教えてくれと頼まれて教える事となった。

 その友人の名前は、ティム・コールと言いオチャメでいたずら好きな少年だった。

 ただ牧師の息子という事で、いい人づらしてるのが嫌いでいつも悪ぶっていた。

 そんなある日、柔道で鍛えた北島の腕力がどれ位、強いのか試してみようと

ティムがいい出した。

 本牧のバーに入って、弱そうな米軍の兵士に腕相撲をしようと声をかけたのだ。

 実際に十ドルづつ賭け、両者の握った拳の上において腕相撲をした。

 まさに映画のオーバーザトップと同じ光景だ。

 腕相撲は腕力だけでなくテクニックが重要。それは速攻。

 ティムが腕相撲のこぶしの上に手を置いて、レディー・ゴーの合図で

戦いが始まった。

 北島が一気に相手の腕を自分の方に引き込んで、あっさり勝ってしまった。

 負けた兵士はフロアーの兵士たちに笑われたので真っ赤な顔をしていた。

 ティムが兵士の十ドルをもぎ取ったので、兵士が怒り形相に変わった。

 ティムが北島にランと言って猛スピードで逃げ出した。

 幸いにその兵士は、かなり酔っていたため捕まらずにすんだ。

 無茶すんなよと北島がティムに言うと、すっきりした顔で大笑いしていた。

 ティムが、なんか気持ちがスカッとして最高だと言っていた。

 ただ、あまりに危険なので、これっきりにした。

 数週間後、ティムが北島に、お礼がしたいと言い、横浜YCACで

 ステーキをおごると言ってきたのでつきあった。

 できるだけオシャレしてくる様にとティムが言うので学生服のズボンと

真っ白なYシャツで出かけた。

 横浜YCACに着きティムの父の牧師の入館証を見せて入館できた。

 そこは豪華なレストランで高そうな酒が並んでいた。

 ティムがステーキを注文したところ何か飲み物はとウエイターが言う

のでシャンパンを注文した。

 そして分厚いステーキが、旨そうに湯気を上げて出てきた。

 これには、たまらず北島が、かぶりつこうとした。 

 ティムが、ちょっと待て「ウェイタ・ミニッツ」といって北島を止めた。

まずステーキナイフの使い方、

 切り方を教えるから同じ様にやれと言ったので仕方なく、

できるだけ上品そうに食べた。

 シャンパンで乾杯し、ゆっくりと味わいながらステーキをいただいたのだ。

 こんなうまくて高カロリーなものを食ってるアメリカ人に低カロリーの

米や芋ばかり食ってる日本人が戦争しかけるなんて、

なんて馬鹿な事をしたんだろうと思う北島だった。

 また、その数週間後、ティムから北島への電話でアメリカンスクールで

柔道の指導をしてくれないかと言われ

了解して休みの日に柔道着を持って出かけていった。

 元町の丘の上のアメリカンスクールで小さい道場があった。

 女の子三人と男の子三人が柔道着に着替えており、

北島も早速、着替えて挨拶した。ただ二人が柔道着を左前の着方を

していたので、すぐに直した。

 左前は、日本では、死んだ人の着方だから絶対に間違えない様に言っておいた。

 左前の事には、みんな一様に驚いていた。続いて受け身の練習を見せて、

北島と同じ様にやるようにと言ったところ

 受け身は知らないというのだった。そこで受け身は準備運動であり頭や首の

怪我防止のために重要だと教えた。

 それに対し柔道など格闘技は攻めでしょうと、彼らが言ってきた。

 その基本的な考え方が、間違っていた。

 柔道は基本的に敵から身を守るものであって、自分から攻撃するもの

ではないと言うと、皆、首をかしげていた。

 こんな基本的な事で時間とってたら、まずいと思い、すぐに受け身を教えた。

 次に教えてもらいたい技を、みんなに聞いた。

 すると、背負い投げ、一本背負い、内また、払い腰、巴投げ、

派手な技ばかり言うのだった。

 とりあえず担ぎ技(背負い投げ、一本背負い)を教え、

次に跳ね技(内また、払い腰)を教えた。

 巴投げは首を痛めると大変なので教えなかった。

 夕方になり終わる頃、ある女の子が寝技を教えろと言ってきた。

 内心うれしかったが、実際に練習中に下半身の制御がきかなくなったら

困るので、どうしようか悩んだ。

 しかし教えての声が多いので教える事にした。寝技の動きの素早さと

不思議さに興味を持っている様であり、

基本的な、けさ固めと、上四方固めを教える事にした。

まず彼らが寝技をかけて欲しいと言うので男女、交互に技を教えた。

 実際に寝技で抑える時に一人の女の子が下着を何もつけてなったので驚いた。

 その子が、またグラマーでプリンプリンなのだ。嫌な予感がしたのだが

冷静にと、心に言い聞かせ教え始めた。

 けさ固めも、最後の、その子の番になった。抑えてみると何とも言えない

良い匂いがしてまた袈裟固めが上半身を固める技なので上半身の柔道着の間から、

彼女の豊満で上を向いたバストが、しっかりと見えるのである。

 見ない様にすればする程、北島の目が、その一点に、吸い寄せられる。

 まずいと思った時は、もう既に遅く、自分のピラミッドが立ち上がり

始めたではないか。深呼吸をし少しなだめて、終える事ができた。

 その後トイレに駆け込み、なだめてから何食わぬ顔で戻ってきて、

今度は上四方固めを始めた。

 その時である北島は黒人を差別する気はないが体臭は別だ、とにかく臭い。

 上半身を抑えるので、もろに体臭が北島の鼻に容赦なく入り込んでくる。

 そこで臭い男の子は抑えたら、すぐ交代し臭くない子の時に技のポイントを

説明する様にした。

 そして、また、あの子の番が来た。今度は上半身に覆いかぶさるように

抑えるので彼女の十六インチ砲二つが、北島の胸の下に、考えただけでも

鼻血が出そうだが、ぴったり身体を合わせたもんだから大変、

自分の大砲が大きくなってきた。

 その位置はというと彼女の頭の上、髪の毛の上。何とか悟られない様にすると、

腰が引け変な格好になるので困った。

 そこで、やむなく畳に強く押し付けると言うか、押し曲げた。

 そして何とか彼らに悟られない様にした。

 しかし、この状態では立ち上がれない。

 そうこうしているうちに時間ばかり過ぎて、みんなに変だと思われるので

知らないうちに上四方固めからの変形という事で、いろいろな固め技に

変形させて時間稼ぎをした。

 それを、みんなが、なんと熱心な先生だろうと思い違いをして喜んでくれた。

 ちょっと、かがんだ姿勢で腰を引き、北島のピラミッドが目立たない様にした。

 そして練習を終えた。

 そしてティムと付き合いはじめて一年が過ぎようとした頃、突

然、ティムとの別れが、やってきた。

 ティムが高校二年時、飛び級で高校三年になり大学の受験資格を取り、

試験で合格して、ボストン大学に入学する事になったのだ。

ティムとは、いろんな議論をし時には激しい口論となった事もあったが

フランクで、いたずらっ子の様なオチャメな所と、裏腹に悪賢い側面を持つ、

ユニークで面白い奴だった。

 そしてボストン大学に合格して、単身で米国へ行ってしまった。帰り際に、

ティムが北島君、本当に面白い一年だった。

 この思い出は、多分、一生忘れないと言ってくれた。

 もちろん、北島も同感だったのはいうまでもない。

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