真っ赤

昼休み、私がいつものようにいつもの机に向かうと――


「何してるの?」


「銀の折り紙でチョコレートを包んでも、それほど違和感がないことを発見した」


――マッカーサーはカッターマットとデザインナイフで工作に勤しんでいた。


「見ろ、これを。むしろ銀紙よりも防護性は高いだろう」


「ワンサイズ大きい名刺ケースみたいになってるけどね」


「チョコ型でエンボスした茶色の折り紙と組み合わせれば、ほぼチョコだ」


どうしてチョコ型を持ってるのかが気になるけど。


「うわ、本物そっくり。結構、手先器用なんだね。これは――クリエイティブ?」


「食いもんだからな、食いエイティブだろう」


せっかくだ、いつももらってばかりでは俺の立つ瀬がない。これをやろう。


「え、いいの? すごくよく出来てると思うけど……」


「俺はよく出来ればそれでいい。後は欲しい奴が持っていればいいんだ。いや、要らないのであれば押し付けがましい真似をしたな――」


「そんなことない! そんなことないから!」


私は慌てて否定する。こんな機会は滅多にないだろう。それと同時に、ある事を閃く。


「だから――一回やってみたいことがあるんだけど、付き合ってもらってもいい?」


「構わんが」


「じゃあ――」


数回ゆっくりと深呼吸をしてから、私は元気よく手を突き出した。


「ギブミーチョコレートっ」


くださいな。ちょうだい。私が向けるべき言葉は、そんなものではない気がしたから。


「どうしてそう満面の笑みなのか分からんが――もしかして、俺もお前から譲り受ける時、そんな風に笑ったほうがいいか?」


ほれ。マッカーサーは、私の手にちょこんと模擬チョコを置きながらそんな事を言う。


「え? なに? 私そんな顔してる?」


「あぁ、笑顔というか、むしろ、そう、にやにや――」


「ごめん、マッカーサー、私ちょっと用事思い出したから! ごめんね! ありがとう!」


ばたばたばた。私は背を向けて全速力で教室から駆け出した。


「おう、……どっちだ?」



************



ダメだ、私鼻血出そう。



************



もらった模型は、家の勉強机の上に置いた。

これでいつでも、Here you areだ。

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