朝ワン

翌朝。


俺は己の哀願するような「ワン! ワン!」という大音声で目が覚めた。


「なんでちゃっかり録音までしてくれてんだよおおおおおおおお!」


「一日が主人と共に始まり、主人と共に終わる。犬としては望むべくもない生活じゃろ?」


「しかも機能別ロックかけやがったな。解除するまで毎日俺これで起床すんのかよ」


「ま、私からお前への、首輪のプレゼントってことじゃな。忠誠せいよ、チューせいよ手の甲に」


「それは犬じゃなくて騎士だろ」


「たまねぎ剣士がおるんじゃから、わんころ剣士くらいおってもいいじゃろ」


ほれ。


ずい、と手を差し出される。


「仕方ねえな――」


俺は自分の手をノムギに重ね、ほんの一瞬だけ唇をつけた。


「おおう、これいいな。ゾクゾクするの。朝の日課にするか」


「俺に芸を仕込んでも何のコンテストにも出れねえよ」


「なんじゃ、お手とかお座りとか教えてほしいんか? それならそうと素直に言えばいいものを――」


「墓穴を掘った!」


「ま、穴掘りは犬の得意分野じゃろ? 順調に調教が進んどるわ、くっくっく」


「ぐぐぐぐぐ……」


「のう、お前、ちょっとそこで三度回ってみろ」


「なんでだよ」


「いいじゃろ、口答えするな。はい、スリー」


くる。


「ツー」


くる。


「後はお前が言え」


「ワン?」


くる。


「三回回ってワンと鳴いたのう?」


「このやろおおおおおおおおおおおお!」



************



ノムギが俺の家に来てから、毎朝こんなやりとりを交わしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る