第4章 消せないキモチ⑤
バスからでも星は良く見えた。
夏の大三角。デネブ、アルタイル、ベガ。
大学の芝生で彼女と星を眺めたのが昔のことのように感じる。
私はアルタイルでも、ベガでもなく、一人ぼっちになったデネブだった。また二人が出会うための橋渡し。
今ならあいつに、一人ぼっちの星に私は共感をいだける。
……なんて、馬鹿なことを考えたり。
真っ暗な中で眠る気も起きなく、どうでもいいことばかり考えてしまう。
私なんて、輝く星にさえなれないのに。
バスの中は静かだった。走る高速道路の周りは海に囲まれている。
私は川崎市から東京湾を横断し、千葉県木更津市に至る高速道路、アクアラインの上を走るバスの中にいた。
私の実家は千葉県で、千葉駅より少し下に住んでいた。チーバくんで言うと、へこんだ喉の所。わかりやすい説明と思っているが、千葉県民以外にこの例えは伝わらない模様。
総武線快速に乗って、神奈川、東京、千葉とぐるりと回るルートもある。時間はさほど変わらないが、横浜から私の実家の最寄り駅までバスの直通があることを知り、こっちの方が楽だなということで、バスを使用している。乗り換え無し、確実に座れる安心感は小旅行といえども重要だ。高速代は高いらしいが、バスで渡る分にはお手頃の値段だ。
横浜からバスに乗ると綺麗なみなとみらいの夜景が見える。受験で来た時には光る街、イルミネーションの世界に感動したものだが、今の憔悴しきった私には眩しすぎた。
海底トンネルもくぐり、海ほたるも過ぎ、もう少しで千葉県に上陸だ。
海ほたるより手前は海底トンネルなのだが、海ほたるを通り過ぎると地上に出る。外は真っ暗な海が広がるだけ。海の中に、海の上といればワクワクしそうなものだが、すぐにそんな感情は消えてしまう。何処までも闇が広がる。
乗客は少なく、私の隣も誰も座っていないので、隣の席に荷物を置き、広々と座っている。でも、心は閉じていた。
彼女の実の兄に嫉妬する私もどうかしている。
恋のライバルとかならまだわかる。兄だ、兄。血の繋がった兄。数ヵ月前に出会った私とは違うのだ。比べるのも烏滸がましい。
でも、大学に入って4か月。本当に楽しかったのは事実なのだ。
―私って何のために大学に入ったんだっけ。
何かを見つけるため。見つけた気がした。でもそれは虚栄で、幻想で、誰かの代わりのキャンパスライフだったのだ。
彼女との関係を解消した次の日、私はすぐに実家に帰ることに決めた。元々お盆に帰る予定だったが、数日前倒した。家にずっといるのが耐えられないと思ったのだ。気分を変えた方がいい。家にいては思い出してしまう。ここにとどまっていては駄目だ。
でも起きたのはとうに昼過ぎで、のんびりと準備をしていたら夕方になっていたわけだ。
我ながら情けない奴だ。
ただお盆が終わったらまた神奈川に帰らなくてはいけない。
一時しのぎの逃避行。吹っ切るための気休め。
それでも、今は時間と、離れた距離だけが、私の心を落ち着かせてくれると信じて。
「はぁ」
ため息も走行音でかき消される。
海が終わり、街の灯りが目に入ってくる。
「どんな顔して親に会えばいいのかな……」
大学の授業ではそんなこと教えてくれなかった。
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