第4章 おなじ空の下で④
「どうしたの希依?そんなひどい顔をして」
久しぶりに会った壮太にひどいことを言われる。
仮にも女の子だ。目のくまがひどいねとか、顔が元気ないよとか、そういう気遣いができないものか。私と壮太の間にそんな気遣いは気持ち悪いが。
二人で星空を見て、教室に戻って作業を進めたが、気づいたら二人とも寝落ちしていた。周りの騒がしさに起きたらすでに朝の8時を回っており、急いで三澄さんを起こして、教室を出た。いくら眠くても、作業が残っていても授業は休んではいけない。休む人は多いだろうけど、1年生からその癖がついたら私は卒業できない気がする。真面目に生きねば!
と張り切ってはいるものの、体がついていかず、眠い。
同じ授業を受ける壮太に指摘されるレベルだ。
「寝たら、後でノートコピーさせてあげるよ」
壮太が優しい言葉をかけるが、私は信じない。
「見返りは」
「昼飯おごりでどう?」
「金欠です」
それに女子に奢られるのはどうだろうか。
女子は奢られるもの!と言う気はないが、こっちが払うと男子のプライドというものがですね、まぁ女子と見られていないのだろう。
「じゃあ、合コンで」
「私に友達が少ないのをお知りで?」
「最近、七実に参加しているんでしょ。女子たくさんいるだろ?」
「確かにいますが」
「それにあの子がいる」
「絶対に連れていきません」
三澄さんを合コンに連れていくとか、絶対に嫌だ。
「いいじゃん、ケチ。希依のものじゃないだろ?可愛い子とは友達になっておきたいんだよ」
チャラ男に紹介して何の得になる。
「駄目です。お父さん許しません」
「いつから、そんな親馬鹿になったんだい?」
親馬鹿になったつもりはないが、三澄さんがそこらへんのどうでもいい男と付き合うのを考えると、確かに許せない気持ちがメラメラと燃え上がる。
私の可愛い娘はやらんぞ。
そんな馬鹿げた会話を繰り広げていると教授が入ってきて、授業が開始する。
さぁ、放課後可愛い娘と会うために頑張るとしますか。
栄養ドリンクを飲むと数時間は持つが、その後に大きな反動が待っている。効果には代償がつきものだ。うちの父親も会社に行く前によく飲んでいたが、家に帰ると翼は折れ、ぼろぼろだった。18歳の娘も今ならその気持ちもわかる。
普段から元気があるかないか、よくわからない三澄さんだが、さすがに今日は元気がないと一目でわかる。それでもパソコンと向かい合い、戦っている。
私はただ彼女の完成を、歓声を待ち続ける。
いや、実際には配布用のチラシを印刷したり、備品のチェックをしたりしているのだが、それも彼女の頑張りには遠く及ばない。
途中、私のオニギリをモグモグしたり、ココアをゴクゴク飲んだりしながら、作業は進み、そして21時を過ぎたあたりで、彼女が声をあげた。
「できた」
彼女が私を見て、ディスプレイを私の方に向ける。
私は彼女のパソコンを見る。
浴衣を着た女の子がしゃがんでいた。
屋台が並び、人が溢れる中で、彼女の周りだけポッカリ空いていた。
しゃがんでいる女の子は見上げる。
見上げた先には甚平を着た笑顔の男がいた。
男の子は彼女の頭に麦わら帽子を被せる。
驚く女の子。
そんな彼女に笑顔を向ける男の子。
夜空には花火が上がっていた。
「どう?」
まじまじと画面を眺めている私に問いかける。
これが2日間でつくったクオリティなのか。
彼女の凄さに驚き、そして、この絵の温かさに心打たれる。
何と表現したら良いかわからないが、私の心にずしりと響き、目が離せない。
「満点の花丸」
彼女の疲れ切った顔に笑顔が灯った。
すぐに仲谷さんにも見てもらい、「三澄さんらしくて、最高だね」とお褒めの言葉をいただく。長谷川君に至っては「悪いけど、前のポスターより百倍いい。あんなことがあったのも、このポスターのためだったんだ」と言い出す始末。気持ちはわかるが、殴られて良かったわけではないぞ。
「さて、まだまだ仕事は終わりじゃないよ」
仲谷さんが緩んだ皆の気持ちを引き締める。
「長谷川は廣末と大量印刷」
「あいよ」
「白崎と松前は私と一緒に駅や、商店街に行って貼り替え」
「任せなさい」
「きよりんとみすみんは構内の貼り替えを宜しく」
「わかった」
「うん」
役割は決まった。
「じゃあ、今日は解散。明日からも張り切って頑張りましょ」
仲谷さんが人差し指を前に突き出し、そして上に勢いよく掲げる。
「七夕、ビクトリー」
皆、空を指さす。
「「ビクトリー」」
こういうノリもたまには悪くないと口元を緩める。目のあった三澄さんもきっとそう思っているはずだ。そうだと嬉しいな。
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