第2章 噂の攻略王④

 のんびりした時間ではあったけど、今までのことを考えたら、刺激的な時間でもあった。

 エレベーターを降り、1階につくと、三澄さんは図書館に行くといい、去っていった。

 強情なところ、無頓着なところ、しっかりとしているところ、三澄さんに関われば関わるほど彼女の色々な顔が見えてくる。最初は顔すら見えていなかったのにだ。

 面白い子。もっと色々な彼女の姿を見てみたい。友達にこんなに興味を持つのは初めてかもしれない。

 すっかり彼女の虜だなーと頭をかく。


「あなたが噂の攻略王ですか」


 後ろから人一倍元気な声が聞こえ、勢いよく振り向く。


「あなたが噂の攻略王ですか」


 背の小さな女の子がいた。


「2回言わんでいい」


 私はいつ冒険に出てクエストをクリアしたんだ?しかも王って。私、いちお女の子なのでせめて女王とか姫にしてくれ。


「誰も近づかない、話しても無視する、難攻不落の帽子女を攻略したんですよね」


 どうしようもなく、それは私のことだった。私以外にありえない。

 しかし、攻略した覚えなどない、断じてない、せいぜい初めてのボスを倒した段階だ。

 でも面白いので悪乗りしてみる。


「あー私だ。攻略王は私だ」


 彼女はおーと感激する。


「やはり攻略王さんでしたか、ははー」

「で、王の私に何の用かな、お嬢さん?」


 ポニーテールを揺らしながら、意気込む彼女。


「私に攻略の秘訣を教えてほしいんです、あの子に近づく秘訣を」

「えーっと、それってつまり友達になりたいってこと?」

「はい、そうです、そうです。さすが王、物分かりが早い」


 彼女が食い気味に話す。

 友達、ね。

 私も友達と思われているかは怪しい。ただ彼女にとって女友達が増えるのはいいことだろう。変な男が群がるより断然マシだ。

 私じゃ、流行りのファッションとか美容とかに疎いんで、いわゆるガールズトークができない。このお子ちゃまな彼女にできるかと言われれば、わからないが私よりは詳しいだろう。

 それにこの子も悪い子じゃなさそうだ。

 まだ数分も話していないけど、雰囲気でわかる。面白い子だと思う。大学には似つかわしくない幼稚な顔をしているけど。うん、ここにいなかったら中学生にしか見えない。


「わかった。三澄さんに聞いてみるよ。それからでいい?」

「そうですね、彼女の意思も大切です。了解しました」


 ビシッと彼女が敬礼する。周りに人がいなくて良かった。恥ずかしい。私は指揮官になった覚えもない。

 じゃあ、と去ろうとすると彼女が呼びかける。


「ちょっと待ってください。連絡先交換しましょう」


 連絡先、そうか。

 大学にいれば、いつか会えるだろうと思っていたが、携帯という文明の利器を所持していたのを忘れていた。

 彼女がバーコードリーダーを表示し、私の携帯が読み取る。

 『仲谷茉知』と画面に表示される。

 大学に入って初めての登録であった。私はこの1か月何をしていたんだ。


「王は榎田希依さんって言うんですね、可愛らしい名前です」


 ふむふむと考え、「じゃあエノキングですね」というので即座に却下する。

 その呼び方は恥ずかしい。なんかのモンスターか、私は。

 それにあだ名にはトラウマがある。中学ではエノデン、エノデンと揶揄われた。特に修学旅行で鎌倉に行ったときは最悪だった。うん、今は忘れよう。


「仕方ないですね、きよりんで我慢します」

「辞めて、その呼び方も恥ずかしいから」

「駄目です、もう携帯にそう登録しちゃいました」


 こ、こいつ。

 後で携帯を見直して、きよりん、誰それ?削除、削除ってなるパターンじゃないか。


「じゃあ、良い知らせ待っています」


 そういって仲谷さんが小さな足をフル駆動させ去っていく。

 なかなかに変な女の子だった。帽子女ほどのインパクトはないが、話してみるとわかる、クセの強い子だ。

 私の周りには変な奴が集まるのだろうか。

 いや、私が変なものに近づいた、歩み寄った結果だ。すなわち私も変な奴なのだろう、周りから見れば。

 まぁいい、普通の大学生活より、変な大学生活の方が絶対面白い。

 くすくすと一人笑いながら、携帯をポケットにしまい、そういえば三澄さんの連絡先を知らないなと思う。

 三澄さんは携帯を持っているのだろうか。

 さすがに大学生だし、持ってはいるだろう。

 三澄さんが電話する様子・・・思いつかない。

 ひたすら無言な気がする。メールは?意外とメールになると絵文字、顔文字を多用して、饒舌になったりするのだろうか。それとも逆に単語だけか。

 どちらにしても気になる。彼女に別な一面があるのか、それともそのままなのか。

 仲谷さんのお願いも聞いてあげるついでに、私も連絡先を交換しよう。そう、友達なら連絡先を交換して当たり前だ。

 次のミッションは三澄さんの連絡先をゲットだ、と意気込み、次の授業の時間が迫っていることに気づき、慌てて走る。

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