第2章 噂の攻略王

第2章 噂の攻略王①

 何もなかった大学生活も彼女に関わったことで、歯車が動き出した。

 それは正しい方向なのか、脱線したのか、何の意味を持つのかわからないが、確かに動き出したのだ。

 私のあげた帽子。それが彼女を変えた。

 プレゼントした帽子を被ってくれるのは予想の範囲内であった。が、あわせて服装も変わってくるとは思わなかった。ジャージ、パーカー以外に服持っていたんだね、女の子として少し安心だ。


「それって惚気話なのかな、希依」


 食堂で対面に座る壮太が不機嫌な声を発する。


「何で惚気になるのよ」

「皆が避けていた帽子女を落とした人がそんなこと言いますか」

「たまたまよ、授業で同じグループにならなきゃ、単位落とす心配がなければ、そんなことしなかった」


 そう、あくまで偶然の産物。他意は・・・あるのだが。


「何で服装も変わったか教えてあげようか」

「うん、教えて恋愛マスター」


 身を乗り出して私が聞くと、壮太はしかめっ面になる。


「希依、本気で言っているの?」


 本気も本気、マジと書いて本気だよ。


「はあー、馬鹿正直に三澄さんに聞いてみればいいよ」


 壮太が溜息をつき、「女心のわからない奴」とぼそっと呟く。

 おーい、壮太さんしっかりと聞こえていますよ。それに私、女なんですけど。女なのに女心がわからないとはこれ如何に。


「いつの間に急接近しているのさ。俺は忠告したよ、関わるなと」

「仕方ないじゃない、余ってグループになったんだから」

「帽子を買いに行くと聞いたときはまさかと思ったけど、希依が人にプレゼントを上げる、それも出会ったばかりの子にあげるなんて急展開すぎるよ」


 ひどい言い様だ。

 けれど、高校までの私だったら確かにそんなこと絶対にしなかっただろう。人に情けをかけて何になる。

 いや、高校までの私だったらではない、相手が三澄さんじゃなかったら私は行動したのだろうか。中身が天使じゃなかったら手を伸ばさなかったのか。


「それに帽子女の正体が美少女なんて誰が予想したさ。違う意味でまた目立つようになるとはね」


 そう目立つのだ。普通にしていれば可愛い子なのだ、三澄さんは。


「心配なの?」


 心配なのだろうか。

 何に心配?

 変な虫がつかないか。三澄さんが喋りかけられて困っていないか。三澄さんがちゃらちゃらした男にサークル勧誘されたりしないか。オタクサークルの姫に持ち上げられたりしないか。

 そんなことになって彼女が迷惑したら、それは帽子をプレゼントした私の責任だ。

 私の行為が、周りからの好意に変わり、攻意に変わる。

 心配する理由はある。

 でも、心配する義理はあるのか。

 ただ授業でグループが一緒になっただけである。それに私は三澄さんのことをさっぱりわかっていない。

 帽子を被るほど、恥ずかしがり屋の女の子。

 絵が上手な女の子。

 笑顔が可愛い女の子。

 ただ会話のキャッチボールがうまくない。

 私が彼女について知っているのは、それぐらいだ。


「無言は肯定と受け取るよ」


 熟考しているだけだ。でも否定しない。

 私は三澄さんのことをもっと知りたい。三澄さんがどんなことを考えているのか、どんなことが好きなのか、どんな、どんな。

 そう、私は彼女と友達になりたいと思っている。


「今のところはあまりの変貌に周りが戸惑っているけど、慣れてきたら皆仲良くなりたいと思うだろうね」


 それは三澄さんにとっていいことかもしれない。


「だから、今のうちだと思うよ。まずはお昼を一緒に食べるとかどうかな。俺もいつも希依にお昼付き合ってあげることはできないからね。これでも俺、モテるんだよ?」


 さすが4つのサークルに入っているイケメンですこと。

 まぁ、ボッチ飯は寂しいからね。だから、私はー。


「わかった、ありがと壮太」

「武運を祈るよ」


 もう一歩踏み出すことを決めたんだ。

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