第2話:Hopeless

月へ向かう前日


男「名前なんだけどリズ(Liz)はどうかな?」


妻「そうね・・・」


子供の出産が予定よりも遅れて、立ち会うことはできなかった。


シャトルは新開発のシステムが搭載されており開発責任者の女性に接続して全ての操縦を行うらしい。


今回月に向かうメンバーは彼女と彼女のチームが2名、私と私の助手が1名の計5人。感覚としては飛行機にのるのと変らない感じでシャトル打ち上げの仰々しい感じは一切なかった、もう月までなら旅行感覚でも行けるらしい。機械につながれた彼女専用のシートの後ろに他の4名分のシートが並んでいる作りになっていった。


大気圏を抜けると自動操縦に切り替えて今後のスケジュールを確認した後、時間が余ったので女性が、世間話でもしましょうと・・・あたりさわりのないところで、アンドロイド開発が自分の夢でそれが叶うのがうれしいということを話した。


女性「そう、それはよかった・・・いいわね夢が叶うって・・・」


男「その義体の開発もご自身がされていたそうじゃないですか?すごいですよね」


女性「ああ、これ?自分に使うことになるなんて夢にも思っていなかったわ。私の体は左腕と下半身が義体化されているの・・・」


男「・・・」


女性「事故の時に私の命を救った医者は、その後、神様のような扱いを受けていたわ・・・残酷よね神様って・・・」


男「・・・」


女性「夢から覚めたら体がなかったのだから絶望したわ、命を救われる方の身にもなってほしいわよね・・・私はそのまま死にたかったわ・・・だって私の夢は子供を産むことだったから・・・もう叶わないけれど・・・」


男「・・・」


女性「・・・そうね、今の夢は死ぬことかしらね・・・」


男「?」


女性「物理的に死ぬのは難しいの、義体の研究機関に国家予算で相当な金額が投入されていて簡単には死ねないのよね・・・たぶん自殺しても何らかの方法で生かされるわ」


男「・・・」


女性「夢の叶え方はいくらでもあると思うの、たとえばシャトルの軌道を変えて宇宙のどこかに飛んで行ってしまえば、事実上、死んだようなものね」


男「・・・」こちらをふりむいて笑顔で


女性「そんな顔しないで、悪い冗談だから」


男「・・・」


女性「まだファーストネームを名乗っていませんでしたねエリザベート(Elizabeto)・・・リズ(Liz)でいいわ・・・わたしが死んだらあなたのアンドロイドの名前にしてもいいわよ」

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夢から覚めたら Iris @Iris-8800

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