助けて③

 朝起きて、窓を開けると、雨が降っていた。

 梅雨の時期だから雨は珍しくないのだが、なぜだか心がざわついた。

 彼女に会って一週間、『相談』と言って何度か昼休みに部室でヤマを含め三人で話し合うのだが、いつも話が逸れる……。

 だから今日こそは話がそれないように単刀直入に聞こうと思った。

 だがその日、朱里さんが部室へ来ることは無かった……。

 それどころかヤマも、部室へ顔をださ無かった。

 次の日、朱里さんは何も無かったかのように普通に部室へとやって来た。


「こんにちは、昨日は来れなくてごめんなさいです」


「こんにちは、朱里さ……!?」


 一日ぶりに来た彼女の頭には、包帯が巻かれていた。


「な、朱里さん!それどうしたの?!」


「だ、大丈夫です、昨日階段から落ちただけなので……」


「落ちただけって…」


 朱里は少し目をそらし、僕を遠ざけるように言った。

 その遠ざける素振りがあまりにもわざとらしく、何かに気づいて欲しそうにも思えた。

 僕は聞こうとした、「何かあったの?」その一言を……言いかけた時だった。


「大丈夫じゃねーだろ」


「ヤマ……」


 口を挟んだのは、ヤマだった。

 ヤマも僕と同じ考えなのか、と思ったがすぐさまそれとは別なのだとわかった。


「どうゆう、事ですか?」


「昨日、階段から落ちた朱里ちゃんを保健室まで運んだのは俺だ。落ちた一部始終も見た……《《誰に落とされたのか》》、もな」


「!?」


 ヤマのセリフに口詰まった朱里は、くらい表情で、うつむいた。


「なぁ、朱里ちゃん、教えてくれよ。そんで相談してくれ。俺はお前の味方だから」


「……って…」


「え?」


「そうやって善人振らないでください!皆最初はそう言います…、『私達友達だから』、『あなたの仲間だからね』何度も、何度もそんな言葉を聞いてきました!ですが、ですが誰一人として最後まで私に手を差し伸べてくれなかった……」


 段々と弱くなっていく朱里の声。

 思わず涙が溢れる朱里に、ヤマは、優しく手を差し伸べる。


「例えお前が俺らの事を偽善者だと思ってもいい、だけどこの数日間、この部屋でだべりまくったやつを、友達を見捨てるなんて俺には出来ない、だから俺は、地に落ちそうなお前に何度でもこの手を差し伸べる。お前がこの手を取るまでずっと」


 その言葉に僕は、愕然とした。

 もし僕がヤマと同じ立場なら、こんな事を言えたのだろうか?いいや多分、言えない。

 僕の心に、少しの嫉妬が生まれた。なんでもできるヤマに、いつも何にでも本心でぶつかって行けるヤマが、僕は羨ましかった。


「ヤマ……」


「ん?」


 こんな事を言っては嘘になる。だけど何か言わなければという僕の焦りが、虚言した。


「僕が言おうとした事、全部言うなよ…」


「へへ、悪ぃ」


 ヤマはいつものような無邪気な笑顔で答えた。


「僕もヤマが言った通り、朱里さんを助けたいと思う。まぁ、元々それが種でここに集まるようになったんだけどね」


「そう、でしたね…」


 彼女の顔の曇が少し晴れた気がした。

 そして、僕とヤマが差し出した手にそっと掴まり、告げる。


「和哉さん、大和さん、悩み。聞いてもらっていいですか?」


 少し照れ臭そうに、でも真剣な眼差しで、朱里は言った。

 僕とヤマはその問いかけに、同時に返事した。


「「当たり前だ!」」


と。

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白世界 烏丸 ノート @oishiishoyu

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