自らの手で殺すか…それとも可能性を信じるか
「あぁーまた負けたよ〜 やっぱり編成変えよーぜ?」
朝 教室ー俺は向かい合う形で圭介と座っていた
「ん〜このままの方が道中楽だし」
俺と圭介は今 大人気スマホゲーム
『スラッシュΩブリゲード』というゲームで
マルチプレイをしている
このゲームはもうすぐ3周年になる
二人とも配信初日からやり込み、
今では世界ランク8位と9位になっている
ちなみに俺が8位だ
本日から開催されているイベント
「神々の降臨」では、今までのあらゆるストーリーボスが進化して出現してくる
クリア報酬はガチャが引けるアイテム
「混沌石」だ
このイベントが中々難しく、
俺達は朝早くから攻略するために
学校に来ていた
もちろん教室には俺と圭介以外誰もいない
このゲームはコマンド選択式のRPGで、
自分が持っているモンスターのスキルを選んで闘う 王道系のゲームだ
「っしかし 初日攻略ってやっぱムズいもんだな〜」圭介は嘆くように言う
初日攻略ー俺達は常に念頭に置いてこのゲームをプレイしてきた
「仕方ねえよ配信されて2時間も経ってないんだから」
このクエストは朝6時から始まっている
今は7時30分ーホームルームが始まるのは後、1時間後だ
できればそれまでにクリアしておきたいのだが…
「やっぱ アーサーはいらねーかなー
でもそれ以外に通用するキャラなんていんのか?」
アーサーはゲーム内でも一番強いとされているぶっ壊れキャラだ
イベントガチャで手に入れた
何万ぐらい注ぎ込んだかは覚えていない
俺達はチームに入れられる4体のうち3体をアーサー 残り1体を回復役にしている
二人とも相当やり込んでいるためか
敵の攻撃パターンはすぐに覚えられるようになった
(これが勉強に活かされてくれればなぁ)
1.2回クエストに行くだけで大体の行動は覚えられる
しかし、理科や社会などの暗記系科目には活かされない
『小選挙区比例代表並立制』とか名前長過ぎだろっ!いつもそう思う
文字の羅列は見るのだけでしんどくなってくる
その点 このゲームはスキル名と効果 ダメージだけが表示されるので俺達の頭を苦しめることもない
だからこそ のめり込めたのだ
「アーサーは3体いてやっと真の強さを発揮する アーサーを減らすのはな…いっそのこと
回復役なしで行ってみるか?」と提案する
圭介は むむむ…と唸り始める
「そのやり方は前代未聞だが、やってみるしかねえよな!」
俺達のゲームのクリアの仕方は基本、アーサー3体 回復役1体でゴリ押しする
今まではそれで安定してきたが
今回ばかりはそうもいかない
いきそうもない
だから常軌を逸した提案をしたのだ
俺達は回復役を外し、もう1体のアーサーを入れ、クエストに入る
俺の提案が功を奏したのか
運がよくクリティカルダメージが沢山出たからか 俺達はクリアすることが出来た
「ふぅー!やったな!初日攻略完了だぜ!」
圭介はやりきった顔で言う
周りを見渡すと かなりの人が登校し
教室のあちこちでお喋りをしている
尚、昨日殺された あいつの机はなかった…
そこだけ不自然にスペースが空いている
クラス全員が昨日のこと思い出すー
殺された人を見た先生の反応
物言わぬ肉の塊になり一言も発すことなく
血を流し続ける死体
脳の中に鮮烈に思い起こされ
泣き出す者 嗚咽する者 表情が暗くなる者
それぞれがいた
ガラガラ と扉が開き
俺たちの担任
体育教師の 近藤 正博 が入ってきた
いつもは眠そうにしているが体育の時には
学校1の熱血教師となる
厳しくも優しい良い先生だった
俺も圭介も親友のように接していた
「早く席に着け〜ホームルームを始めるぞ〜号令!」
号令係は 起立 と呼びかけ 気をつけ 礼!
とテンプレのワードを口にし 着席!と
呼びかける
「えぇ〜今日は2時間目が特別集会に急遽変更になりました…理由はもう知ってる通りだが…」そう言って先生は昨日殺された森山 慎吾の机があった場所を見る
教師は悲しそうな目で俺達を見る
「せいぜい 弔ってやろう…」
そう言いホームルームは終わった
教室を後にする先生の表情はどこか暗かった…
特別集会とは、前日に殺された者の名を
公の場で言うことだ
殺された者の名が知れ渡ることでよりいっそう 命の危機があることを俺たちに伝える
校長は俺達を生かしたいのか殺したいのか
全く分からない 何を考えているのかも
校長は苦悩する俺たちの顔を見て
ゆっくり笑う
「死んだら終わりですよ…」と
この学校の生徒は明るく見えるかもしれない
楽しく学校生活をおくる普通の中学生に見えるかもしれない
しかし 皆 心の内では抱えきれない恐怖と憎悪を持っている この学校 そして校長へ…
今日の時間割は 数学 集会 体育 社会 家庭科 国語だ 授業時間は50分 10分の休憩時間を
挟み昼食の後には20分間の昼休みがある
もちろんどの時間だろうが
命の保証はない
突然殺されるかもしれない
1時間目の数学は
平方根についてだった
圭介はよく
「数学とかやる意味ねーだろー?」と先生に文句を言っているが
それは数学を完璧にできる人間が言うことです と一蹴されクラスは笑いに包まれる
何だかんだで楽しいクラスだ
授業は無事終わり 殺される者もなかった
別のクラスは知らないが…
(次は集会か…)
例の発表だ
聞く者は楽しい思いをしない
校長だけが笑っている
また、不思議な空間が作り出される
俺達は体育館に行き校長の話を聞き始める
「昨日は 森山 慎吾 という勉学に非常に熱心に取り組んでおられた生徒が殺されました
前途ある若者を失ったこと 大変遺憾に思います」殺された と言っているが実際に殺しているのは校長に雇われた狙撃手 つまり校長が殺しているも同然なのだ
皆 それを分かっている
わかっている上で学校に通っている
(まぁこの話ももう終わりだな…)俺はそう思い伸びをする
しかし、校長は次なる話をし始めた
「あともう1つ、悲しみで気が狂いそうなのは私もわかります が、君達には常に命の危機があることを忘れてはいけません!
そこで、新たな政策を実施いたします!」
俺を含め全校生徒、教師達も一斉に校長に釘付けになる
「えぇ〜今日から授業中の殺人はスナイパーライフルだけでなく 直接教室に乗り込んで
殺しにくる場合があります
もちろん殺し専用の軍人を雇います
君達には素手で勝負しても勝てないでしょう
彼らにはナイフ 爆弾 劇薬 など あらゆる
道具を持たせます まぁせいぜい生き延びてください 死んだら終わりですからね
ほっほほほほ!」老人はそう言い高笑いする
生徒達はあちこちで喋り出す
「そんなの確実に死んじゃうよ…」
「軍人とかやばくね?」
皆恐れている
教師達もひそひそと話し始める
おそらく、聞かされていなかったのだろう
殺されるのは教師も同じだからだー
すると今度は俺たちのクラスの担任
近藤がステージに立ち
マイクを握る
「えぇ〜ただいま校長先生からありましたように 僕を含め全員が軍人に殺される可能性もあります 軍人など君達には勝てないでしょう 私もそうでしょう
軍人と1対1で闘ったとて全く歯が立たないでしょう そのために…」
先生は後ろを見て、手招きをする
「こちらの対暗殺者の外部講師に
自らの命の守り方 護衛術を体育の時間に君達には学んでもらいます」
手招きされたのは3人 3人とも屈強な戦士だった
体育館内に再びざわめきが起こる
「紹介します 右から ビエル コマス シエンタ
です 怖く見えますが中身は割といいですので安心してください」
(全員外国人かよ…)
強そうな見た目 言葉が通じるかの不安
その2つだけで生徒達を恐怖の淵にたたき落とす
その時、1人生徒が手を挙げる
全校集会という公の場で
一切物怖じせず 自身に溢れた顔つきで
彼は俺と同じクラスの…
「3年2組 今村 成都です 質問があります」
どうぞ、と校長に促され
いきなり立ったかと思うと
ヅカヅカとステージに向かって歩き始める
何人かの教師は止めに入るも
彼は教師など眼中になくただひたすら
体育教師の近藤を睨んでいた
「ちょっと!待ちなさいよ!」
1人の女教師が半ば強引に引き止める
次の瞬間彼の視界には 注意した女教師が
空中に浮かんでいるという奇妙な光景が広がっていた
否 蹴りで浮かせたのだ 女教師の体を
「「!!!!!」」
体育館内に衝撃がはしる
「げほっ!げほっ!」
蹴られた女教師は苦しそうに唾を吐いている
「ちょっと どいてくださいよ 俺はあの軍人と手合わせをするつもりだったのに…
あんたが悪いんだよ? 俺の邪魔をするから」
彼はー今村は鋭い眼差しで女教師を見下ろす
全校生徒 教師が今村に釘付けになる
今村はそんなことを気にする素振りを
一切見せずステージに上がり
マイクを手に取る
「俺は3年2組 今村 成都です! この軍人と
手合わせをしたいと思いここまで来ました!
俺は気になります
この軍人がどれほど強いのか
皆さんも気になるでしょう?
命が簡単に奪われる馬鹿げた学校に
護衛術をわざわざ教えにくる講師がどれだけの実力なのかを!」
俺達は呆気にとられる
彼のとった行動に…
彼の言ったことは確かに気になる
どれほどの実力で俺達に何を教えてくれるのか
しかし、誰も口には出せない
出したところで何も変わらないと思っているからだ
彼は違う 可能性を信じたのだ
例え0.1%であろうとも
酷いソシャゲの当たりキャラ排出確率だったとしても
まるで 賭け のようにー
「さあ!この俺に見せてください 実力を!」
彼は高らかに宣言する
「俺はこんな雇われ軍人には負けない!
こんな学校には殺されない!」
相当の自信なのだろう
いつどこから狙撃されるか分からない
この状況で宣言する
「素晴らしいですねぇ!我が校にこんな勇気のある生徒がいたなんて!」
校長は感動するような表情で彼を見る
「ですが、集会に君の登場はプログラムにないのでね…死んでいただきます!」
そう言うと校長はトランシーバーをとり、
何かを喋る
口の動きを見るに察しがつく
「殺れ」明らかに口の動きがそう言っていた
突如 体育館の窓が割れる
「パリンッ!」
狙撃が始まった 斜線が通るよう窓ガラスを割ったのだろう
「いいね!さあ どこからでもどうぞ!」
彼は怯えるどころか
撃ってくれ と言わんばかりに手を大きく広げる 守る様子はない
「嘘だろ…死にてえのかよ…」
「あいつ…馬鹿なんじゃない?」
「頭おかしいぞ!」
あちこちから驚嘆と嘲笑が聞こえる
当然 彼は聞いていない
(どうなるんだ?)
と思った刹那 弾が体育館内に放たれる
1発目は彼に命中することなく マイクスタンドに当たる
「ほぉ…」彼が声を漏らす
2発目が撃たれる
が…弾がどこかに当たった様子はない
体育館内が困惑に包まれる
「バタッ」
彼が倒れた
おそらくこめかみに命中したのだろう
「ぎゃはははははは!見たか!馬鹿げた学校でも お前のような粋がりは簡単に殺せるんだよ!」
校長はまるで自分が殺したかのような
興奮した口調で話す
校長の一言で俺達は今村が死んだことを悟った
「やれやれ たった1発だけか?」
どこからか声がする
それはステージからだった
撃たれたはずの少年は立ち上がった
血一滴たりとも流さずに…
体育館からは歓声と驚きの声ー
「き、貴様!なぜ生きている!
狙撃はまともにこめかみに命中しただろう!」
校長はやや焦りながら言う
無理もない
今まで 同じやり方で何人もの生徒 教師を殺してきたのに そのやり方がたった1人の生徒によって破られたからだ
「こんな子供騙し程度の弾で死ぬと思ったか?俺が」
彼の手にはライフルから放たれたであろう弾が握られていた
「まず、弾の弾速が遅すぎる
俺程度なら簡単に見切れるぞ
次に弾の形も良くない
こんなもんこめかみに刺さったとて
頭蓋骨止まりだろ?
確実に殺すには
脳の奥まで抉らなきゃ」
そう言って彼は抉る様子を手で表す
「さてと、これで狙撃が俺に効かないことは証明されたな」
この学校の唯一の殺しの手段がいとも容易く
破られるとは…
誰が予想していたであろうか
こんな生徒を見たことがあるだろうか
誰もが驚愕する
彼の姿を見て
「ええい!こんなはずじゃ!
やってしまえ!
ビエルとやらっ!
その生意気な少年を殺してしまえ!」
校長は荒ぶった口調で言う
すると今度は屈強な戦士 ビエルが喋る
それも外国人とは思えぬ流暢な日本語でー
「殺すとまでは行きませんが
先程からその少年の言い分を聞いている限り
かなり舐められているのが伝わってきますので…
2度とその口が開けないようにして上げるぐらいは容易いかと…」
ビエルは肩をポキポキと鳴らし、腕をまわす
対する今村も拳を握り パンっと手の平に打つ
「いいぜ!来いよ!」
今村と戦士ビエルの打撃戦が始まった…
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