Runway01 研究チーム

観測隊が編成完了する1ヶ月前―


「ねぇ、ねぇ、そこのキミ、航空機の免許持っていたよね?」

「ええ、そうですけど……それが何か?」

「なら丁度良かった~。キミ、観測隊に入る気は無い?」

「観測隊…ですか?」

「そうだよ、今政府が促しているでしょ、あの国際共同で進めてるプロジェクト。」

「ああ……ありましたねそんなのが。でも又何故その事を?」

「いやぁ…ね、ウチの研究チームがさ、何か選ばれたみたいなんだよね、そのプロジェクトに。」

「ほへ……?」

「で、各チームから専用機を出しても良いっていうことだからウチも出してみる?ってことになってさ、でも航空機操縦出来る人ってあんまり居ないんだよね……」

「はぁ……それで?」

「だからさ…その…お願いしても良いかな?航空機の操縦を、さ。」

「そのお気持ちは大変嬉しいのですが、お断りさせて頂きます。」

「え………」

「確かにそのプロジェクトは大変光栄な事だと思いますし、専用機を飛ばすという意見もとてもごもっともな事だと思います。

実際どんな機体なのかも興味ありますし。」

「ならどうして……」

「すみません、もう僕は2度と飛びたくは無いんです、と言うより操縦出来ないんです―実機では。」

「実機では―ってどういうこと?」

「それは―」

「お~い矢幡ぁ~主任が呼んでるぞ~」

「は~い、今行きまぁ~す」

「と、言うわけで夕夏梨センパイ。この話はまた後で。」

「分かった、それより早く行きなよぉ、主任を怒らせると色々マズイから。」

「はい!」


「矢幡君、入りなさい。」

「失礼します。」

「さてさて、今日はある話があって呼び出したんだが、もう心は決まってるみたいだね。」

「話というのは……」

「もう既に夕夏梨君から聞いているとは思うが、観測隊に入らないか?という誘いだ。

君の過去の事は聞いている。だから無理をしなくても良い。多分あの夕夏梨君のことだからしつこく要求してきたのだろう、その件に関しては私から強く言っておくから心配しなくても良い。」

「そんなことは―」

「いや、良いんだ。又何かあったら良いに来てくれ、何とかしよう。」

「はい……」


と主任室からトボトボと出てきた情けない男、矢幡敦彦は現在学生であり、特例で事業用操縦士の資格も持っている。

しかし、昔によって、航空機を操縦することによるPTSD心的外傷後ストレス障害を発症、シミュレーターを使用した訓練なら可能な状態にまで回復したものの、まだ実機に乗れる状態では無かった。

そこへ―

「やぁ!キミくんどうだった?随分精神的に疲れている様だけど。」

「ああ…夕夏梨センパイでしたか。最初何の謎物体かと思いましたよ。」

「さすがにそれはレディに掛ける言葉じゃ無いと思うなぁ。いくらキミくんが疲れているからってそれとこれとは別だよぉ。」

「はい……」

そんなお疲れモード丸出しの敦彦に話し掛けてきたのは、ショートに栗色の髪。

そして何故か少し露出度が高めの服にネックレスを付けているという謎深き人。

この人が敦彦の先輩である立木夕夏梨である。

(こんな色々付けまくっている人にレディと言う方が無理ってもんだよ。

て言うか、この人と会話するともっと疲れる。)

「―今何か失礼な事考えて無かった?」

「いや、別に……」

敦彦は慌てて目を逸らした。

「ほんとにそうかな?何か違う気がするんだよね……」

「ヒッ!?」

半眼で睨まれてしまった。いつもは少しチャラチャラした印象なのだが、睨まれるとマジで恐ろしい。

「い、いやいや本当に違いますって。」

「ふ~んまぁ良いや。」

「良いんかい!」

思わず敦彦はツッこんでしまった。

「え?まだイジッて欲しいの?」

「なにその意外そうな顔!いやもうさんざんイジられましたしもう十分です!」

「チッ」

「今舌打ちしましたか?絶対しましたね!」

「あんまりうるさいとモテないぞ~」

「今そこ関係無いでしょう!っていうか何で主任室から出て直ぐに貴女が居るんですか?」

「それはもう……分かるでしょ☆」

「妙にポージング決めなくていい!」

「……クソッ(ボソリ)」

「ん……?今汚い言葉が聞こえて来たような……?」

「あんまり小言を聞き取り過ぎるとモテないぞ~」

「あ…やっぱり言っていたんですね!クソッ(ボソリ)って!」

「さて……何の事だかワカラナイネ。」

「後半急に片言になった!?」

「馬鹿話はここまでにして、もう一度聞くよ。」

「……はい」

夕夏梨先輩は急に真剣な顔になり、その迫力に敦彦は圧倒され、姿勢を慌てて直した。

「観測隊に入ってくれませんか。」

夕夏梨先輩はしっかりと目を見据え、とても真剣な眼差しで、問い掛けてきた。

「………すみません。その要請オーダーには応えられません。」

だから、敦彦はもう一度、その問いに答えた。

「どうして無理なのか、理由を聞くことは出来ますか。」

「……はい。と言いたい所ですが、余りこの話はしたく無いので別室へ移動しませんか?」

「分かりました。て、言っても何処へ移動するのかい?」

「こっちです。」

敦彦の先導に夕夏梨は付いていった。


二人の目の前には見渡すほどの青空が全方位に広がっていた。

「あ~っと…キミくん。これはどういう事なのかな?ちゃんと説明してくれるかな?」

「え~とですね……」

二人は航空機のシミュレーター室に来ていた。

そして、夕夏梨が見ているのは敦彦のシミュレーター訓練の風景である。

「何でそこまで高い操縦技術を持っているのにキミくんは飛べないと言うのか。私にはさっぱり分からないよ。」

少し夕夏梨の態度には苛立ちが混じってきたのは気のせいか。

「これ、オフレコで頼みたいんですけど。実はですね―」

敦彦はこれまでの事を全部話した。

昔は頼まれて試験機のパイロットテスターをやっていた事があること。

ある試験飛行中に突如故障が発生、墜落したことがあること。

その時に生き残ったのが自分だけであったこと。

など、何故操縦出来ないのか、何故そしてシミュレーターなら操縦出来るのかを話した。

「そういうこと………」

「はい。」

「でも、本当は又飛びたい、自分の手で操縦したい、って気持ちはまだあるんです。

なんだか情けないですよね、未練がましいみたいで。」

「……そんなことは無いと思う。」

「えっ?」

「だってそこまで強い気持ちが無かったらまた操縦しよう、克服しようとしないよ多分。

それにさ、シミュレーターに乗れる状態まで克服してきているんでしょ、それは凄い事だと思うけどなぁ。」

「夕夏梨センパイ………」

(この人は普段チャラチャラしている様に見えてそういう所はしっかりしてるんだよな。

俺とは全く別の方向にいる人だよ、全く。)

「さぁてそろそろこの部屋から出ようか。

ここを使う人もいるだろうし。」

「はい。」

二人はそそくさと部屋を出た。


その夜、敦彦は自室に籠って一人、考えていた。

(この機会に実機に乗ってみようかな。

久々だから不安だけど、PTSDの症状が出ないとは限らないけど、でもあの時とはもう違う、何事も挑戦だからな。)

このとき、敦彦の揺らいでいた気持ちが遂に固まった。


そして次の日―


「おはようございます。」

「おお、敦彦君か。おはよう」

「あっキミくんだ~おっはー」

「あの…主任ちょっとお話が……」

「?何かね。」

そして敦彦は意を決して言った。

「主任、俺を研究チームに加えてくれませんか?

もちろん専用機の操縦もやります。」

主任は少し驚いた様子だったが、直ぐに真剣な顔になった。

「本当に良いのかね?大丈夫なのかね?」

「はい。」

即答だった。

「よし、分かった。敦彦君も我々のチームに入ってくれ。研究者兼機長としてね。」

そして何処から取り出したのか、敦彦は分厚い本を渡された。

「主任……これは?」

「あぁ、専用機の説明書マニュアルだよ。シミュレーターについては第二を使ってくれ。」

「了解しました。」


こうして敦彦の新しい生活が始まった―

















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LATZ ノーストゥデルタ @po74

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