8 記憶に無い姉

冷たく、冷え切った部屋に寛太と雪乃がソファーに座り向かい合う。

そして、寛太は今まで隠していた事を口にする


「俺は…イタリアの小さな農場に生まれたんだ、俺が生まれた一家はシャーロック・ホームズの子孫と称され地元で有名になり、新聞にも取り上げられたんだ。

ある日、俺が家に帰るとお父さんとお母さんがいなくなっていた。隣の家に住んでいるおばさんに『お父さんお母さんとお父さんはどこ?』と尋ねると、おばさんは体を震わせながらこう言った…

『白衣を着た人たちに連れていかれたと…』そう、お母さんとお父さんは人体実験の実験材料として連れていかれたんだ。その後、子供がいないと気ずいたらしくこんどは俺を探し始めた。それで、俺は世界を転々として回って来た今までずっと…」

寛太は今までの人生を全て雪乃に話し、一息ついて真剣な表情で雪乃を見る、すると雪乃が大粒の涙をこぼし泣いていた。なにか、可哀想な物を見た様な顔で下を向いて静かに…


「お、おい…雪乃…?どうした……?」


「だって…だって!寛太が、可哀想で!」

そう言うと、耐えきれ無くなったのか『えーーーん』と赤ちゃんの様な声を出し大声で叫び泣き始めた。


「お、おい雪乃、落ち着け…取り合えず深呼吸をしろ」

なんせ、今の時刻は深夜13時を回っている、近所迷惑になってしまう

雪乃が、『スーーハーー』大きな深呼吸をし落ち着きを取り戻し俺に優しく囁いて


「寛太……頑張ったね」

そう言って、雪乃の前でしゃがんで居る寛太の頭を優しく撫でる

それは、母親に撫でられる様な、何処か『優しく』『暖かく』『気持ちの落ち着く』そんな感じが………


「ああ…」


「うんっもう大丈夫だよ寛太…私が居るからずっとずっと…」

輝く目が寛太を見つめる。


「ありがとう…」

こんなの初めてだ、人間…いや生き物にこんな優しく扱われるのは

ああ、そう言って寛太の意識が遠のいて行く。



「寛太…寛太」


う…ん?なんだ何処か遠い昔で聞いた事のある懐かしい声が…ゆっくり目を開け辺りを確認すると、緑の草原が広がっている。

寛太は、そんな草原を見て固まっていた。『ポンポン』と頭を優しく叩かれ、ビクッとしながら恐る恐る後ろを振り向くそこに立っていた女性は、

「お姉ちゃん……?」

え……?お姉ちゃんなど俺には居ないはず、なんで俺はお姉ちゃんなんて言ったんだ?

そんな、寛太を見ていた女性が寛太の頬を触る、冷たい…でも何処か暖かい様な。


「なんで…寛太泣いてるの?」

そう口にする女性、寛太は自分の目を擦ると確かに濡れて居る。

どうして……………?


「あ、あのここは?」

寛太は、女性にかしこまりながら質問する。


「何かしこまってるの?寛太、ここは貴方の生まれ生活している『フネス谷』でしょ!」

そんな所聞いた事が…………ある…?

そうだ、俺はここで育ったんだ。ここは、俺の故郷…


「う、うん」


「さ、寛太家に帰ろ」

そう言って、女性と俺は手を繋いで家へ向かう。


「ただいま〜」

女性が元気よく、声を出すが家の中から返事が無い。


「あれ?知らない靴があるよお客さんかな?」

そう言って、ドタドタとリビングに向かう女性……

リビングの扉を開けた瞬間、その女性は大声で叫び俺の居る方へ全力で走る。


「お、お姉ちゃん…」


「お、お父さんとお母さんが…死んでる」

ここからでもその光景はしっかり見える、そこら中血だらけで血の池が出来ていた。

そこの中に、2体の人の姿が…


「首が、無い…」

首、首が無い。その死体の首が……

ドン、ドン大きな足音が階段から聞こえて来る。逃げなきゃ…なんで?足が動かない…と言うよりも足に力が入らない、死ぬ…。


「寛太!逃げて!」

そう叫ぶ、女性その瞬間、寛太の足に力が戻った。

俺は、大急ぎで家を飛び出し森の中へ逃げあの大男から逃れる事が出来た。


けど…あの女性は…次の日家の前に行くと警察が現場調査をしている…

そう、お姉ちゃんが死んだ…


「お兄ちゃんお兄ちゃん!!」

ん……?あ、結城の声だ…


「寛太!起きて!」

あ、雪乃の声も聞こえる…ああ、分かったこれ夢だ。


深い眠りから目覚める寛太、夢か…

「ん…なんだ…」


「ああ!起きた!」

結城の大きな叫び声が俺の頭の中に響きわたり、未だ何が何だか分からなかった俺の意識が戻る。


「う、うるさい…」


「あ、ごめん」

申し訳なさそうに結城が俺の方を向き謝る


「あ、意識が戻ったのね!寛太!」

そう言って、雪乃が泣きながら微笑んで俺の方に走ってくる。なにか、とても危ない物を左手に持ちながら…

お、おい…雪乃さん何持っているんですかあああああああ!

意識が戻ったばかりの俺が全力で走って雪乃から逃走する。


「お、おい!雪乃と、止まれ!馬鹿!」

そう、雪乃が左手に持っていた物は…包丁だったのだ。


「良かったお兄ちゃんが無事で…」

泣きながら、全力で逃走している俺に横から抱き付いてくる結城


「ああ!結城な、何をしているんです!そうですか…結城がその手を使ってくるのであれば私も!!」

そう言って、雪乃も結城に続いて俺に抱き着いてきた。


「あああ…助けて…」

そうして、また意識を失う寛太____________

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