転校生にはおちゃめな一面が存在した

第88話 転校生にはおちゃめな一面が存在した -01

 原木御子。

 別名『地獄の子守唄』、もとい――『悲獄ひごくの子守唄』。


 彼女との戦いは大いなる禍根を残した。

 身内というレベルまでは遠いが顔見知り程度であった彼女と敵として対峙した時、『白夜ホワイトナイツ』に所属する『スピリ』――剣崎けんざきはるかは明らかに戸惑ってしまった。

 傷つけずに倒す。

 それは相手を場合によっては殺してしまう、お互いに文字通り命を張った戦いよりも難しい。言うなれば一方的に自身だけ命を懸けていた状態だった。

 だから彼女はあの戦いに勝てなかった。

 いや、あの戦いにはそもそも勝利などなかった。

 得たモノは何もない。

 残ったのは原木の死という――命を守れなかった事実のみ。

 その事実は、今まで『魂鬼こんき』という、死んだ人間のなれの果てではあるが異形の存在を斬ってきた彼女が、人間と戦うとことに対して覚悟を決められなかったということを暗に――直接、彼女に突き付けていた。

 何もかも、彼女にとっては辛い出来事になってしまった。

 唄、ということすら、下手をしたらトラウマになってしまう程に。


 心に傷を負っていないか?

 これから彼女は、人間と戦えるのか?

 剣を置いてしまうのか?


 そんな心配をされていた彼女の現況は――




「は・る・か! は・る・か! L・O・V・E・は・る・か!!」


「♪~~~~ッッッ!!」



 木藤家のリビングにて二人の母親と一人の男子高校生に合いの手と共に光る棒――サイリウムを振るわれながら、顔を真っ赤にして歌っていた。

 しかも、可愛らしい曲調、かつ、振り付き。

 おまけにメイド服姿で。

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