第48話 デートと探索 -09

    ◆



「……昔はそんなに子供が好きな方じゃなかったんだけど、やっぱり赤ちゃんを授かるとそういう気持ちって変わるのよ。可愛くって仕方がないくらい」

「「「へぇー」」」


 ショッピングモールを離れてすぐの比較的人通りが少なくなってきた通りで、女子三人の声が重なる。

 何だかんだで遥もそこに入っていることに少しだけ拓斗は微笑ましく思っていた。

 やっぱり、遥も女の子なんだな、って。


「……って顔を75パーしているぞ、拓斗」

「微妙な数字だな」

「……でも否定はしないんだね」

「どっちに転んでも悪い方にしか行かないの判っているからな」


 一方で男子達は、女性陣から一歩引いた所で荷物の大半を持ちながら会話をしていた。


「しかしながらさ、ウチの女性達は偉いと思わねえか?」

「いきなりなんだよ、大海。……でもまあ、そうだな」

「……普通こういうのって男に全部荷物を押し付けるもんだけど、きちんと持っているしね」


 蒼紅の言う通り、女性達も荷物をその手に持っていた。但しその量は男性陣の方が多かったが、それは筋力の問題であるから仕方ない部分ではある。それに女子よりも少ない量を持つなんて男としての矜持が――というのは意外にも蒼紅も含めてあったのだ。


「……それはさておき、女性陣、結構仲良くなっているね」


 蒼紅がじっと視線を集める。その視線の先が遥だったのは、さっきの亜紀の話を聞いたからで、ただの気のせいだろう――と拓斗は思いつつ言葉を返す。


「ああ。原木さんと打ち明けるの、凄い速かったよな」

「やっぱり赤ちゃんってみんな欲しがるのかねえ」

「……さっきから大海が問題発言しかしていない件について」

「あ? なんかおかしいか?」

「お、おかしいよ……ねえ、拓斗?」

「大海がおかしいのはいつも通りだろ」

「そうだそうだ拓斗の言う通りだ。今更何言ってんだよ」

「……あれ? なんかぼくが間違っている雰囲気になっているのおかしいよね……?」

「ちょっと男子―。そろそろつくぞー」


 静が振り向いてこちらに声を掛けてきたのをきっかけに、男子陣三人は早足に女性陣の元へと寄る。


「もうすぐなのか?」

「あそこらしいよ」


 拓斗の問いに遥が前方の建造物を指差す。そこは二階建ての非常に質素なアパートで、築三十年といった所だろう。赤ちゃんの泣き声とか隣に聞こえそうだ、と拓斗はいらぬ心配をした所で、原木が頭を下げてくる。


「本当にありがとうございます、皆さん。正直に言うと量を買い過ぎたと思っていた所だったので助かりました」

「いえいえ。手助けになれて良かったです。……ほら、みんな。荷物を中に入れちゃおうよ」

「あっ! いいです! 外に置いておいてください!」


 再び代表して答えた静に対し、首を思い切り横に振って声を荒げる原木。唐突に何でそのような反応をしたのか分からずに皆は少し戸惑った様子を見せたが、


「ま、ここからは荷物運べるし、いいんじゃない」


 そう言い切って言われた通りの場所に置いていく遥。先の行動といい、性格なのか結構判断力が速い。これがスピリにとって必要な要素なのかもしれない。


「ごめんなさいね……」


 申し訳なさそうにする原木だが、皆は嫌な顔を一つせず、遥に続いて荷物を置いていく。

 そして全ての荷物が部屋の前に置かれた所で、「本当にありがとうございました」と原木が再び頭をぺこぺこと下げる。


「いえいえ。こっちが勝手にやったことですし」と拓斗。

「……気にしないでください」と蒼紅。

「まあ、いい運動になったしね」と遥。

「何かエロい!」と大海。

「運動って単語に卑猥さを感じるなよ……ああ、この馬鹿が失礼しました」と静。

「それじゃあ、赤ちゃんに元気でねーって言っておいてください」と亜紀。


 ――その亜紀の言葉の直後だった。

 本当にたわいのない――特に深い意味のない、赤ちゃんの話をしていたからこそ出た言葉だっただろう。

 しかしながら、拓斗は見逃さなかった。



「ええ、きちんと伝えておきますね」



 一瞬だけ、原木の表情が強張ったことを。

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