第44話 デートと探索 -05
◆回想
入学式。
ぼくは憂鬱だった。
判ると思うけど、この変化する髪と性格から、中学の時からぼくには友達がいなかった。髪の色もあらかじめ学校側に話を付けていたりしたけど、それでも一般生徒全員に話をしようが無かったから理解なんてしてもらえるはずもなかった。つまりは好奇な目で見られるだけで話し掛けてなんかもらえないし、話し掛けられない。……知ってた? 極端な異端に対してはみんな目を背けるんだよ。からかいに声を掛ける奴とか、小学生までなんだよ。帽子を被っていても性格は隠せないしね。
だから友達なんて出来ようもなかった。
そう諦めて一人、中学と同じように席で一人で突っ伏していたその時だったんだ。
「……なあ、あんたさ……」
そんな声がしたんだ。
ぼく以外の誰かに声を掛けているんだろうと無視をしていたら、今度は肩を揺さぶられた。だからぼくに向かってだって分かった。
仕方なく顔を上げたんだ。
そこにいたのは、大海だった。
にやにやとした笑い顔のね。
ぼくはその瞬間に思ったんだよ。
……ああこいつ、髪の色をもの珍しく見るやつなんだ、所謂不良って奴なんだな。
って。
だから無視を決め込んでもう一度伏せようとした所で、
「ちょっとお願いがあるんだ」
「……お願い?」
「そうなんだよ」
そう言って大海は、ぼくにこう耳打ちしてきたんだ。
「……その席、俺の席と変えてくれない?」
「……は?」
呆けるぼくに、大海は畳み掛けるように問い掛けてくる。
「そういや名前、何て言うんだ?」
「え? 田中蒼紅だけど……」
「んじゃあ今日から俺がその名前な!」
「はぁ?」
その時は本当に意味が分からなかった。
だけどあとあと分かったんだけど、ぼくの隣の席って静だったんだ。
だからなんだろうけど、それがきっかけだったんだ。
ぼくは嬉しかった。
訳の分からない奴だけど、ぼくの容姿には全く触れずに接してくれた。
自分自身を見てくれたんだって思った。
そこから、大海と仲良くなっていた拓斗とも話すようになって……っていう感じで、仲良くなったんだ。
うん。ありきたりでしょ。
きっかけなんてそんなものなんだと思うよ。
あ、因みに大海と静は幼馴染なんだってさ。拓斗も知らないようだけど。
……そういえば拓斗って意外とぼく達に深く関わってこないね。ああいう性格だから察しがいいのかもしれないね。
あとは……そうだね。神上さんのことだよね。
うん。ぼくも神上さんって言っている様に、彼女は静経由で仲良くなった……っというわけじゃないんだ、実は。
静も最初は神上さんとは仲がいい訳じゃなかったんだ。
神上さんって、みんなから高根の花だと思われていたんだ。中学も遠くからだったらしいし、誰も素性を知らない美少女がいる、って。男子は遠巻きに話し掛け辛そうにしているし、女子は嫉妬心からか近付きがたいのか、彼女に話しかけようとはしなかったんだ。静は「……なんか話し掛けるなオーラが……」って言っていた。実際、あの頃の彼女は今の様相が全然想像できない程に凄く影のある感じだったからね。
彼女も、ぼくとは理由が違ったんだけど、独りだったんだ。
そんな彼女に対して誰も話し掛けない期間が、結構長く続いたんだ。
そうなると誰も、もう話さない。
……だけど。
「あ、ねえ、そのかばんに付いている『パルンちゃん』ってどこで買ったの?」
放課後に教室中が凍ったんだ。
下校しようとしていた神上さんの鞄に揺れているモノを見て、そう声を掛けた奴がいたんだ。
パルンちゃん、って単語が分かると思うけど、そうだよ。
拓斗だよ。
「もしよかったら教えてくれない? 僕が持っていないやつなんだよ」
「あ、えっと、その……」
「ああ、ごめんね。神上さん。急に話しかけて」
拓斗はあははと笑って、困惑している神上さんにこう言ったんだ。
「でも、もっと一緒に話したいな。神上さんと」
……もう、傍から見たらナンパだよね。
その頃から、拓斗のクラス内でのキャラクターが決まったんだ。
でも、これで神上さんと話す様になって、結果的にここまで仲良くなれたんだから、世の中、何が起こるか判らないよね。
そこから、ぼく達は昼食を食べる、クラス内でも仲のいい存在となったんだ。
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