2章 悲獄の子守唄

プロローグ

第34話 プロローグ

 女性は、歌う。

 

 

 雨が降りしきる中、歌う。

 滴る雨が、頬を伝う。

 周りには、一人もいなかった。

 ――いや、いた。

 大勢の人が、いた。

 だが立っている者は、彼女の他に誰一人としていなかった。

 全員が水溜りに顔を浸し、微動だにしていない。

 それでも、女性は歌う。

 まるで、そこには誰もいないかのように。

 何もないかのように。

 その女性の姿は、とても美しかった。

 遠くからでも、思わず見惚れてしまう程。

 しかしながら。

 確認できたのは姿だけ。

 歌は、聞こえなかった。

 いや、聞かなかった。

 それは、本能で分かったから。


 歌を聞いたら死ぬ。


 事実

 女性が歌いだすと、周辺にいた人々は次々とその命を止めていった。

 故に、その女性の歌声を聞く者は誰一人としていない。

 その女性が何を歌っているか、誰一人として分からない。



 それでも――女性は歌う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る