第32話 剣崎遥は盾を所望する -11
「意外にあっけなかったね」
散乱する光を眺めながら、拓斗は遥に言う。
「っていうか、あの『魂鬼』を一撃とか、その剣って凄いな。いや、凄いのは遥か……」
「あ、あの、えっと……」
拓斗の顔をじっと見て、遥は何やら口をパクパクさせている。
「ん?」
「あの、言いたい、っていうか、その……」
なかなか本題に入らない遥。
その様子だけで、何を言おうとしたのか拓斗には分かった。
だから、微笑みを見せる。
「いいよ。許すよ」
「え?」
「謝るつもりだったんだろ? さっきの家でのことを」
ポカンと口を開ける遥。
「え……どうして分かったの? た……た……」
次のも、分かった。
(本当、わかりやすいなぁ)
拓斗は、パンパン、と手を叩く。
「はいはい。遥さん。それよりも忘れていることはないかな?」
「え……? 忘れていること?」
動揺する彼女に向かって、拓斗は「そうです」と人差し指を立てる。
「契約のこと、すっかり抜けているでしょう?」
「あ……」
「僕の意志で『盾』になったとはいえ、一応君が望んだから、これって契約に入るよね?」
「確かに望んだし、その理屈は合っているのかな……ううん。そうじゃなきゃ君は『盾』にならないから、私は無意識に契約していたのか……」
頭を抱える遥。
そんな彼女に指先を向ける拓斗。
「と、いうわけで、今回の命令を発表します」
「うぅ……」
唸り声を上げて後悔を見せる遥に対し、ふふ、と拓斗は微笑する。
「まあ、今回はすっごく、簡単なことだけどね」
「……?」
遥は恐る恐る顔を上げ、上目遣いで拓斗を見る。
「……望みは何?」
「ああ、それは――」
そう言って拓斗は、最高の笑顔で命令した。
「僕のことをちゃんと名前で呼びなさい」
「え……」
その言葉に、遥は目を丸くする。
先程から驚いてばかりだが、その驚愕の様子は、今までで最大級であった。
「どうして……さっきから私が思ったことを……」
「さぁ、早く呼んでよ。僕の名前をさ」
拓斗は笑顔のままのじっと遥を見る。
遥はしばらくその顔を呆けた顔で見ていたが、
「……参ったなぁ」
やがて下を向き、言葉を落とす。
「それを言う前に、私は君に謝らなくちゃいけないのに……」
「それはなし、だよ」
「え?」
遥は顔を上げる。
「なしって……何で?」
「やっぱり話を聞いていなかったんだね」
はぁ、と、拓斗はわざとらしく溜息をつく。
「僕はもう許した。だから、もういいよ」
「でも……」
「それに、ついさっき家でも言ったじゃん。大切なのは『どうすれば良かったか』じゃなくて、『これからどうすれば良いのか』なんだって」
「……」
「だから、それはなし。さぁ、早く早く」
遥は一度、顔を伏せる。
――そして。
「……うん。分かった」
彼女が次に顔を上げた時。
その表情は――最高の笑顔だった。
「ありがとう。――拓斗」
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