第27話 剣崎遥は盾を所望する -06
◆
「きゃーん。いらっしゃーい、遥ちゃん」
玄関前で待っていたのは、ロングヘアをリボンでポニーテールにした、エプロン姿の、見た目はとても大人っぽい女性。
そんな女性の口からいきなり「きゃーん」なんて言葉が出てきたことに、遥は絶句した。
「ど、どうも……」
「きゃーんすごーい。まるでアニメのキャラが具現化したみたいに可愛い子」
いきなりぎゅーっと抱きしめられて、困惑気味の遥。
拓斗はやれやれと頭を振って、その女性に声を掛ける。
「……母さん。少し自重してよ」
「え……お、お母さんなの!?」
母親の腕の中で遥は目を見開く。
「精神年齢はともかく、姿は君のお母さんと違って年相応でしょ?」
「いや、年相応じゃないよ……二十代中頃くらいの美しさだよ」
「きゃーん。嬉しいこと言ってくれるじゃない」
遥に頬ずりをする拓斗の母親。
「私は、あなたのお母さんの美哉ちゃんと同級生なのよん。
「よ、よろしくお願いします」
「話は全部聞いているわ。さぁ、さっさと家の中に入りましょう」
「母さん。そろそろ離してあげなよ」
「あらいやよ。この子、お持ち帰りするんだから」
「もう家の中に入ったからお持ち帰りしたでしょ。さぁ、離した離した」
「ちぇ……ふわふわで気持ち良かったのに……」
そこでやっと遥は解放された。
「おーい。大丈夫か?」
「す、凄いパワフルだね……っていうか」
呆然としながら、鈴音を見て声を震わす。
「恐るべき、母親の世代」
遥は本気で恐怖心を覚えた。
と、そこに鈴音の声。
「遥ちゃんは2階の突き辺りの部屋を使ってね。あ、そういえば荷物もある程度仕舞っちゃった。主に下着とか洋服類をね。勝手にごめんねー」
「いえ。ありがとうございます」
「後の作業は、拓斗、手伝いなさいよ。廊下に置いておくからさ」
「へいへーい」
生返事をする拓斗。
「あ、そうそう。母さん」
「うーん? 何?」
「遥のお母さんからの伝言。『穿て! パルンちゃん! のDVD最終巻を貸して』だって」
「オーケー。後で電話しておくわね」
「よし、じゃあ行こうか、遥」
「あ、うん」
この一連のやり取り。
普通。
あまりに普通。
故に、それだけで遥は思った。
いい親子だな、と。
「ここだよ」
遥に用意された部屋は、かなり広めの部屋だった。しかもかなり綺麗で、まるで新居のようであった。
「ここ、本当に使っていいの?」
「駄目だったら、何処に住むのさ」
「うーん……屋根の上、とか?」
「だからそういう発言はアニメキャラと被るから控えろと……」
そう言いながら、拓斗がクローゼット開ける。
――直後。
「……ごめん」
何故か拓斗はクローゼットを静かに閉じて、遥に頭を下げてきた。
「え、何? どうしたの?」
「クローゼットを開けてしまってごめんなさい。中にはワンダーランドが入っていました。いやはや、まさか君に、こんな趣味があったとは……発見してごめんなさい」
「何のこと?」
最初は下着でも見たのかと思ったが、下着をそのまま出しっぱなしにする訳がない。そもそも、拓斗の顔色は赤というより青だ。
首を傾げながら、遥はクローゼットを開く。
「……」
そこでようやく、遥にも、その理由が判った。
「……あの母親……ッ」
中に入っていたのは、メイド服やナース服などのコスプレ衣装。
しかもかなりの量がそこにはあった。
「見れば誰だって引くわ、こんなの……」
「あの遥……いや、遥さん? このことは誰にも言わないから……」
「ちがう! これは全部あの母親のものだし! 私はこんなの絶対に着ない!」
遥は怒鳴りながら勢いよく扉を閉め、肩で息をしながら、キッと拓斗を睨む。
「これで普通の服が入ってなかったら、恨むからね!」
「何で僕に言うんだよ!?」
そんなこんながあったりもしたが、無事に30分くらいで、遥の部屋はあっという間に変貌を遂げた。
「しっかし……ファンシーな部屋になったな」
ぬいぐるみがたくさんある部屋の中を見渡して、拓斗はくすりと笑いを零す。
「全く、年相応の女の子らしい部屋だね」
「う、うるさいよ」
遥は顔を赤らめた。
「す、好きなんだからしょうがないじゃない」
「でも、この中にパルンちゃん人形がないのは駄目だな」
「パルンちゃん自体知らなかったんだから、仕方ないじゃない」
「じゃあ、1個あげるよ」
そう言って拓斗はちょいちょいと掌で『来て』のジェスチャーをし、自分の部屋に連れていく。
「……うわぁ」
部屋を見て、遥は思わず感嘆の声を上げる。
「とても……ファンシーな部屋だね……ここまですると感心するくらい」
遥の部屋よりも明らかにぬいぐるみの数が多い部屋の中を見渡して、遥はくすくすと忍び笑いをする。
「全く、年相応の男の子らしくない部屋だね」
「う、うるさいよ」
拓斗は顔を赤らめた。
「す、好きなんだからしょうがないじゃない」
「あーパクリだ」
「オマージュと言ってほしいな。ほれ」
拓斗は窓際にあった人形の1つを投げ渡す。
「それは身の安全を願うパルンちゃんだ。大切にしろよ」
「うん。ゴミ箱の中に飾っておく」
「おい!」
「冗談よ」
ペロ、と舌を出す遥。
「ったく……じゃあ僕は先に下に降りていくからそのぬいぐるみを自室に置いておいで」
「了解」
遥は敬礼をした。
拓斗から貰ったぬいぐるみを大事に胸に抱えながら。
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