第16話 『人間』の定義 -03
◆
2日前。
ごく一般家庭である
(今日はラッキーだなぁ。早く上がれたし……お土産も貰ったしね)
優子は左手の手提げ袋を見て微笑む。
(みっちゃんは喜ぶだろうね。なんせみっちゃんの好きなカステラだもの)
みっちゃんとは、優子の1人娘の
そんな光子に対して一刻も早くお土産を持って帰ろうと、小走りで自宅へと向かう。その甲斐あってか、その日はいつもよりも早く家に到着出来た。
彼女は笑顔で玄関の扉を開く。
だがそこにいたのは、おろおろと狼狽している姑の姿だった。
「どうしたのですか? お義母さん?」
「優子さんごめんなさい。ちょっと目を離した隙に……」
「え……?」
優子は姑の言葉を聞くなり、急いで外に飛び出した。
「はっ……はっ……」
優子は駆けた。
全力で駆けた。
雨が降り始めたことにも構わないで。
(まさか、すれ違いになっていたとは……)
どうやらその雨が降りそうという理由から、光子は優子に傘を届けようとしたらしい。それを姑は、遅くなるかもしれないからと止めていたが、ちょっと鍋が吹いて目を離した隙にいなくなってしまったとのこと。
(それが大体3分前で、こんな短い間にすれ違わないということは……あの道か!)
優子は先程通ってきた道とは違う、狭い路地に走り込む。
(この道は暗くて誰もいないから通っちゃ駄目っていったのに……最近は銃弾通り魔というのが出没しているから、なおさら強く云い付けていたのに……もう!)
優子はさらにスピードを上げる。
一刻も早く見つけて安心しようとした。
何故か嫌な予感がした。
妙な胸騒ぎがした。
「……いや、大丈夫」
優子がそう頭を振って角を曲がった所で――
真っ赤な2つの傘が――真っ赤な少女の前で逆向きに雨を受けていた。
翌日から、優子は寝込んだ。
穴だらけになった光子を見たショックから――いや、その姿になった光子を、心で拒否していたからかもしれない。
そう思っていた。
――しかし。
薬を貰うべく一応診察をしてもらおうと、心配した姑と夫に連れられて行った病院で、それは間違いだと判った。
心で拒否していたのではなかった。
心が――光子を求めていたのだった。
それに気がついた瞬間に、優子の周りが停止した。
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