第15話 『人間』の定義 -02
「縁者?」
新しく出てきたその言葉に拓斗は反応する。
「そう。縁者。つまり、この『魂鬼』が人間だった時に親しかった人のこと」
視線を女性の方に向けたまま遥は続ける。
「空間を切り離すこの『スピリ』の能力は、いくつかの状況では一般人でも動くことが出来る。それは3つあって、1つは『『魂鬼』』であること」
まあ動かなくなったらこの上なく楽なんだけどね、と肩を竦める。
「2つ目は、『『スピリ』の空間別離能力を知っている者』であること。これが、今のお前がここで動ける理由。この能力は認識されると、その人間には効力を無くすらしい」
「そういうもんなのか……」
「これだけは理屈は分からないんだけどね。1つ目と、そして3つ目の理由である――『魂鬼』の縁者であること。これらは理由が判っている」
「その理由って、何?」
1つ頷いて、遥は答える。
「それは――『魂鬼』が強く想いを寄せるから」
「……いや、ちょっと待て。何で『魂鬼』が強く想いを寄せると、その縁者が動けるようになるんだ?」
「それは『魂鬼』がその人に会いたいと、強く願うから」
呼応するように『魂鬼』はうううと唸る。
「強い想いは、『スピリ』の、この空間別離能力による硬直を打ち破る。他の人は、そこまで強い想いではないから動けない。ただ当たり前のように存在しているだけ。だけど、『魂鬼』は違う。強く存在したいと思っている。だから動ける」
「ちょっと待って。なら何で縁者は動けるの? その思いは縁者にはないでしょ? 強く存在したいと思う気持ちは。縁者であっても、普通の人間に変わりないのだから」
「確かにそう」
だけど、と遥は言う。
「縁者にはないが『魂鬼』にはある。その人物に会いたいという、強い気持ちが。その人が自分の前に来てほしい、存在してほしい、という気持ちが。存在したいという気持ちと、存在してほしいという、『魂鬼』の2つの強い気持ちが重なって、初めて縁者は動けるようになる」
「………………」
と、そこで女性の口元が少し動く。何て言っているかは、拓斗には聞き取れなかった。
「……そうか」
遥には聞こえていたようだ。しかし、彼女はそのまま拓斗に話し続ける。
「と、いうことだ。だから分かった? あの時のことも」
「あ、あぁ……って、あの時って?」
「昨日の夜、私が疑問を持った理由。多分、お前にはどれも当て嵌まらなかっただろ?」
「あ」
拓斗は目を見開く。
「僕はあの時の『『魂鬼』』を知らなかったし、君達の『『スピリ』の能力』も知らなかった。それに、あの『魂鬼』の顔には全く見覚えなんかないし……」
「昨晩のお前の様子から、そうだということは1発で判った。まあ、結局の所、お前のその事象の原因は未だ不明だけどね」
さて、とそこで遥はようやく女性に話し掛ける。
「そこのあなた、その『魂鬼』の縁者……この『魂鬼』が誰なのか知っているんでしょう?」
「……ッ!」
女性はびくっとし、怯えたように遥に視線を向けると、ゆっくりと首を縦に振った。
「……はい。そうです」
「やっぱり、か」
遥は微動だにせず続ける。
「あなたには悪いけど、あれは斬らなくてはいけな――」
「止めてください!」
女性は大声を上げる。
その目には、溢れ出そうなほどに涙が溜まっていた。
「お願いです! 斬らないで下さい……ッ!」
「でも、あれは」
「あの子は!」
ゆっくりと顔を上げながら、女性は訴える。
「あの子は……私の娘なんです」
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