第3話 構わない

戸惑いながらも看護師さんがエマちゃんと呼ばれた女の子に向かって言い聞かせてる。


「でも…そんなに簡単に決めれることじゃないのよ」


安安と僕を女と決めつけてこんな状況なのに、何を今更と思うけどこのまま治療の日程がずれれば何のために僕が休学をしたのか。


「構わん。話し相手も欲しかったし。なあ、ええやろ」


僕に話を振らないでくれ。ややこしくなるじゃないか。もうすでにややこしいのに。ひたすらに、なあ、なあ、と話しかけてくるところを見ると、この子は本当に人懐っこいのか、はたまたお喋りさんなのか……


双方と病院の話し合いの末、結局約1週間の間は同室となった。

荷物を運び終えると、嬉々として僕を外に連れ出そうとするあの子。

なんというか、見た目に似合わず元気な人だ。


「うちが院内を案内したるよ。行こう」


細く控えめに言っても枯れ木のような脚。腕も同様。つかめば折れてしまいそうだ。

骨と皮のみ。表現は悪いけども、これ以上は言えない。


「えっと……君は動き回っても大丈夫なのかい」


「君、やなくてエマ。橘恵茉。可愛い名前やろ?気に入ってんねん。お兄さん、お名前は?」


「僕は相宮真夏。ねえ、ほんとに動き回っても……」


「構わんよ。あんまり長く歩けるわけやないけど、そこまでしんどくない。心配は無用や」


本当に大丈夫なのだろうかと思うけども、その溌剌とした姿に負け、広い病院を歩き回った。

しばらく歩いた先、ここは小児科、昼間は子供が多くいる。近くに産婦人科も。エレベーターで上下したのでよく覚えてないけど、消化器系や外科は少し離れているらしい。

すると突然、その細い足が止まった。


「…ちょっとしんどくなってきたわ」


「どこかに座る?椅子があるところ…」


「いや、大丈夫や。あと少しで終わるから」


最後に連れてこられたのは、大きな食堂と購買。

食券機には美味しそうなメニューが並べられている。これは見ているだけでお腹が空きそうだ。しばらくはこないでおこう。


「…うちはここに来てもなんもできひんから」


「僕もこないと思うけど…」


「なんで!?食事制限とかあるん?」


「僕は食べちゃダメ…」


「え?食べたらあかんの?」


至極驚いた顔をされた。

そこで、僕がどうしてここに入院することになったのか。大雑把に説明をした。

エマちゃんは摂食障害と言うものが、単なる拒食のみでないことを知らないようだった。


「…うちは食べたいけど食べれんのよ。体がどうしても受け付けん。精神的なもんや。しばらくはこのままらしい」


「僕は食べたいけど食べちゃダメだから」


「…2人で半分こできたらええのにね」


「そうだね」


ぎゅっと、エマちゃんの点滴を握る手が強く揺れた。

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