大里浩一(高校生)【3】
これほどの流血の場に居合わせたのは初めてだ。長くは見ていられず、浩一は目を逸らした。そのとき、斜めまえにいた宇都さんの横顔が見えた。事件の現場を凍りついたように凝視している。顔色は紙のように真っ白で、胸に押しつけられた拳が震えていた。
浩一は数歩あゆみ出て、宇都さんの視界を自分の背中で隠すようにした。彼女がびくっと小さく跳ねる。
「あんま見ないほうがいいよ。だいじょうぶ?」
「う、うん、ありがと。ごめん」
宇都さんは弱々しく微笑んだ。
みんなをうながしてその場を離れようと歩きだしたとき、視界の隅で、史織が「おー」と目と口を丸くしているのがわかった。なんなんだと思うのと、自分がいま宇都さんをかばったことに感心しているのだろうと気づいたのはほとんど同時だった。そして、流血の事件をだしにして、女の子のポイントを稼ぐことになってしまったんだろうかと、少し後ろめたく思う気持ちも。
――いま、自転車組の四人で駐輪場から出て、ひとり待つ宇都さんのところに向かいながら、浩一はちらっと背後を振り返ってみた。現場はそう遠くはないが、ちょうど駅ビルの角に隠れて見えない位置にある。救急車のサイレンはもう聞こえてこなかった。あの警察官は大丈夫だったんだろうか? 地面に拘束されていたあの男性は、いったいどうしてしまったんだろうか?
浩一の隣りを歩く崎山が、同じように振り向いた。
「危険ドラッグとかかなあ。前ほどはあんま聞かんけど」
「あー、かもな」
浩一も曖昧にうなずく。彼にも通り一遍の知識はあった。法律の規制が追いつかず比較的簡単に手に入る薬物があって、使うとハイになるらしい。かわりに幻聴や幻覚などに見舞われることがあり、ひどくなると攻撃的になったり車を暴走させたりする――その程度の知識でしかないが。
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