大里浩一(高校生)【2】

 肩をさすりながら、既に屋内駐輪場の外で二人を待っている崎山と霧島さんのほうへ向かう。崎山はクラスは別だが、家が近所で部活も同じ剣道部なので、よく一緒に登下校していた。今日のこと――というか宇都さんのことは話していないので、“浩一は史織と仲がいいからたまには一緒に遊ぶんだろう”、くらいに思っているのだろう。

 二人のそばまで歩いて駅ビルの外に出たとき、遠くから近づいてくるサイレンに気づいた。救急車だ。左手のほう、ついさっき学校から来る途中で通った道で停まったらしい。

「あー、やっと来たんか」

 崎山が首を伸ばして様子をうかがいながら――ビルに隠れて見えないが――独り言のように言う。霧島さんが眉をひそめてうなずいた。

「すごかったもんねアレ」

 浩一はさっきの光景を思い出した。五人で連れだって駅ビルに向かう途中、郵便局のまえにできた人だかりに遭遇したのだ。事故を起こした車のまわりを野次馬が数十人とりかこみ、口々になにか言い合ったりスマホで写真を撮ったりしていた。彼らを制する警察官の声や警笛の音も聞こえていた。

 現場に居合わせるのは珍しいことながら、ただの事故だと思ったので、浩一はさほど気にすることなくその場を通り過ぎようとした。だがそのとき、いきなり群衆の一部が割れて、血まみれの男がよろめき出てきたのだった。そして男の背後――事故を起こした車の脇に、首をおさえてうずくまる警官の姿。彼もまた制服の上着をみずからの血で汚していた。何をされたのかはわからなかったが、最初に飛び出してきた男が警官を攻撃したことだけは理解できた。愕然とする五人のまえで、男は即座に別の警官たちに組み伏せられた。

 怪我をした警官の低いうめき声が、野次馬のざわめきを縫って届く。警官は数人の同僚に支えられて、アスファルトの地面に横になった。介抱する一人が硬い表情で何事か話し、別の一人がうなずいて肩の無線機に口を寄せている。横たわる警官の全身が痙攣し、周囲には血溜まりが広がっていった。周囲では野次馬たちのどよめきが大きくなりつつある。

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