宇都紗耶香(高校生)【5】

「宇都さんはなに買うの?」

「やー、まだなにも考えてないんだけどねー」

 急に話しかけられてどぎまぎしながら、「去年はハンカチ買ったから、今年は別のにしよっかなー、くらいで」と少しだけ早口になってしまう。逸らした視界の端で、大里くんが笑顔でこちらを見ているのがわかる。

「俺こういうの苦手でさ、いっしょに選んでよ」

「えー、いやいや、そんな、わかんないよー」

 なになに大里くんといっしょにお買い物? どんなのがいいのかな私だってハンカチとかお花とかしかあげたことないし、そういえば一昨年は福岡のお兄ちゃんと一緒に、いやそのときはまだ福岡に行ってないから福岡のお兄ちゃんじゃないけど、ちょっとお高いチョコのセットを買ったりもしたけど、うちのお母さんは甘いのが好きだからそういうのもいいけど、そもそも大里くんのお母さんがどんな人なのか知らないから選びようもないというか、でもこういうのって気持ちだから別に自分たちがいいと思ったのがいいのかもしれないけど、自分たち? 自分たちってわたしと大里くんと二人?

 二人で雑貨屋や花屋で話しながら母の日のプレゼントを選んでいる姿が頭に浮かび、紗耶香はあわててみんなから顔をそむけると、急に天井の照明が非常に興味深いものになったようにしげしげと眺めだした。

「俺、去年はすっかり忘れちゃっててさ。当日にあわててカーネーション買ったんだよ」

「そ、そうなんだー、カーネーションもいいよね。てっぱん」

「でもハンカチとかもいいね。どういうとこで選べばいいのかなあ」

「い、いろいろだからねー」

「山形屋とかかなあ」

 大里くんが挙げたのは、地元の百貨店の名前だ。

「それもいいねえ」

「あ、でもさ、紗耶香ここで買ったんじゃなかったっけ去年」

 隣のカフェ兼雑貨屋を指差しながら、愛璃が余計なことを言う。

「あ、そうなんだ? どんなの? まだあるかな」

 大里くんはそう言いながら店の入口まですたすた歩いていき、そこで振り返って、紗耶香に笑顔でちょいちょいと手招きした。大里くんは身体が大きくてごつごつしているくせに、たまにこういう仕草をするところが可愛い、と紗耶香は心持ち顔を伏せながら考えた。“くせに”とか思っちゃだめか。

「えー、さ、さすがにもうないんじゃないかな……」

 既に店のなかに入り込んでいる大里くんを追って、紗耶香は小走りになる。そのうしろを残る三人もついてきた。

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