宇都紗耶香(高校生)【6】

 オクタホテルはカフェと雑貨屋がいっしょになったお店だ。入口側には女性向けの雑貨が綺麗に並べられ、大きな窓に面した側はカフェスペースになっている。カフェでは数人のお客さんが、夕陽のなかで楽しそうにおしゃべりしていた。店に射し込むオレンジ色の光を背に、かわいい装飾の小物やティーセット、輸入物のバッグや帽子のあいだを、おおきな大里くんがきょろきょろしている。

「宇都さん、ハンカチとかってどのあたり?」

「えっとねー、そこのバッグのまえのー」

 ハンカチやタオル類が置いてある一角に歩み寄りながら、去年プレゼントに選んだデザインを思い出す。四隅に蝶々かなにかの刺繍がはいった水色のやつだった。輸入物で、ブランドは覚えていないけれど、値段は確か千円ぐらいだったはず――こんなことなら、もう少しいいやつ買っとけば良かった――いや、そんな動機で選ぶものではないんだけれど……。

「あ、ここか。たくさんあるねえ」

 色とりどりのハンカチやハンドタオルを眺めながら、大里くんが感心したような声をあげた。一枚、二枚とりあげて刺繍や値札を確かめているその姿を、紗耶香は横目でそっとうかがった。

 彼はこういうところが、ほかの男子とは違う。剣道部で身体が大きくて、なんだか威圧感すら感じるのに、話しぶりはとても静かで落ち着いている。女性客向けのこういうお店にも物怖じせずにすたすた入れて、恥ずかしがることもなく母親へのプレゼントを選んでいる。

 さっきも、と紗耶香は思った。駅近くの人だかりで、紗耶香の目のまえに進みでて、事件の現場から離れさせてくれた。そういうふうにさりげなく他人を気遣ってくれるところも、他の男子とはすこし違う……ように思う。あんまりわたしのまわりにはいないタイプだ。

 だからこんなに――いや、すこしだけ――気になってしまうんだろう。

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