宇都紗耶香(高校生)【4】

 自転車組は駅ビルの駐輪場に自転車を押していった。紗耶香はビルの壁にもたれて待つ。遠くから救急車のサイレンが近づいてくるのが聞こえた。さっきの郵便局のあたりだろうか。ここからでは見えなかった。

 通学鞄の中のスマホが震える音が聞こえたので、鞄に手を入れ、画面を覗く。母親からのLINEが届いていた。〈今日は早く帰れそうです☆彡 晩ご飯はめんたいこパスタだよ〉の文に、かわいい熊がかわいいガッツポーズをしているかわいいスタンプ。めんたいこ、そういえば福岡のお兄ちゃんから一昨日届いてたんだっけ。

〈やったぜ〉と返信し、スマホを鞄に戻したところで、自転車組が戻ってきた。

「紗耶香はなに買うんだったっけ?」

 愛璃の問いに、紗耶香は曖昧に、右に左に首をかたむける。

「んー、いやー、特になにっていうのは……マンガくらいかなあ」

 お小遣いでこつこつと買い進めている『王家の紋章』の文庫版が、あと二冊で最新刊まで追いつきそうだった。

 そういえば来月は母の日があったなあ。ショッピングプラザに入ってすぐのところにあるカフェ兼雑貨屋を横目にしながら、紗耶香は思い出した。去年はここでハンカチを買ったんだった。

「あとは母の日のプレゼント選ぼっかなー」

「あ、そうかー、もうすぐじゃん」

 そう相槌を打ったのは愛璃ではなく、大里くんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る