第2話「初陣と出会い」

 ある日の夕方、学校からの帰り道のことだった。

 たけるはいつものようにアンパンをかじりながら界境神社に向かおうとしていた。

 その途中、背中に背負った御神刀が震えるのを感じた。

 尊にはすぐに思い当たることがあった。


(師匠が言っていたのは、これか……)


 神器には異災の出現を感じ取る力があるという。

 尊の御神刀が今、反応しているのはそれなのだ。

 尊は刀に導かれるまま、町の東へと向かった。




 町外れの公園に着くと、そこには異災に追い詰められている女性の姿があった。

 女性は二十歳前後で、木を背にしており、異災を見ながら怯えた表情で立ちすくんでいる。

 異災は黒い立方体にあちこちからトゲの生えた姿をしており、女性から五メートルほどの所で宙を漂っていた。


「…………」


 尊はここに来る途中、スマートフォンで雄志郎に連絡を取ろうとしたが、つながらなかった。


(師匠はいない。俺がやらなきゃ……!)


 新米の御神刀使いは抜刀すると、異災に向かって一気に距離を詰める。

 それに気づいた異災も標的を尊に変えたようだった。


「~~~~!」


 異災から尊に向かって黒みを帯びた風が吹きつける。

 それに対して尊が正眼の構えで踏みとどまると、黒風は刀の前で霧散していった。


「おおおおお!」


 尊はそのまま突き進むと、裂帛れっぱくの気合とともに異災に斬りつける。


「~~~~!」


 異災は光に包まれると、かき消えるようにいなくなった。


「俺にもできた……」


 初陣を勝利で飾った尊は感慨深げに独りごちたが、すぐに襲われていた女性に向き直った。


「大丈夫ですか?」

「は、はい……ありがとうございました……」


 女性は、長い髪が若干乱れていたものの、外傷などはないようだった。


「そうですか、それは良かった。それじゃあ、オレはこれで」

「あっ。待ってください!」


 尊がそのまま立ち去ろうとすると、女性に引き止められた。


「何か?」

「あの……連絡先を教えていただけませんか。改めてお礼に伺いたいですし、また同じようなことが起きるかもしれませんし……」

「ええと……」


 思わぬ言葉に尊は面食らったが、その言葉を受け入れ、自分のスマートフォンの番号を教えることにした。


「あと、界境神社は知ってますか?」

「はい。この町では有名ですよね」

「それじゃ、何かあったら界境神社に来てください。オレも放課後はそこにいますし、オレよりもずっと頼りになる、異災関連の専門家もいますから」

「わかりました。ありがとうございます」


 女性は深々とお辞儀をした。




「こんにちは、尊さん。今日も精が出ますね」


 女性の名は、高橋詩乃たかはし・しのといった。

 県内の大学に通っているらしいが、尊に助けられてからというもの、足しげく界境神社に通うようになり、修行に励む尊に挨拶や差し入れをしたりしている。

 姫神様や雄志郎ゆうしろうとも自然と顔見知りになった。


「なんじゃ。ずいぶん仲良うなったではないか。尊も隅に置けんのう」

「まったく、うらやましい限りだな」

「そんなんじゃありませんよ」


 そんなふうに尊が姫神様と雄志郎にからかわれる光景も見受けられるようになった。

 そして、時は過ぎ、尊は高校最初の夏休みを迎えた。

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