15 ヤマンバギャルは絶滅すれど身体の中心はヤマンバレベルである件について
リア充破砕男が、襲撃場所にあえて難攻不落に近いラブホテルを選んだのはひとえにその象徴性のためであった。
しかしながら、鍵付きの扉がいちいちあるような場所よりも、もっと開放的であり、しかも同等の象徴性を持つ場所があれば、そのほうがより効率的に破砕を行えるはずであった。ラブホテル襲撃の後でリア充破砕男は、その場所に気がついた。渋谷だ。渋谷の街だ。
渋谷の街には、さすがにヤマンバギャルはもういないにしても、身体の中心がヤマンバなギャルがたくさんいるはずではないか!
リア充破砕男は、渋谷で下車したことはなかった。新宿は割とよく下車していた。同様に交通の要所だからもっと降りてもいいはずだが、渋谷に入るだけで資格試験が要る可能性も考えなくてはならなかった。
……そんな資格が存在しないとしても、資質、というのは別にあるのではないか。資質のない人間が渋谷に入ると瘴気を吸って死ぬ。近づいただけで肺をやられる。
そんな恐ろしい都市があるとしたら爆破しなくてはならぬ。都市を爆破するのは大変に大規模なため、核兵器が必要になるが、さすがに作り方はよくわからなかった。リア充破砕男は本気で作りたくなってしまい、作り方を検索するものの、機構も原料の入手も大変に難しいことがわかり、そこは持ち前のあきらめの良さで投げ出した。
投げ出したものの、リア充たちが業火に焼かれていくさまを想像することが彼のモチベーションになった。つまりは臥薪嘗胆のために想像力を使う訳である。リア充破砕男は、そういうことには想像が働くのだった。日本で想像を働かせなさい、と命じられるもののトップワンが「タニンノキモチ」という奴だとすると、そちらはからっきし駄目であった――というわけでもない。
リア充たちが業火に焼かれていくその苦しみは、文字通り「他人の気持ち」であった。何も、焼かれたリア充が苦しむとは夢にも思わなかったからそういう想像ができるわけではない。苦しんでいるさまを想像するから楽しいのであって、苦しむかどうかわからないような人間のことを想像しても何も面白くはない。
それは、いじめっ子がいじめるのは他人の気持ちがわからないからだ、という迷信と同じ話だった。そんなはずはないのである。いじめる相手が苦しまなければいじめっ子がいじめることはない。苦しむと知っているからこそいじめるのだし、どうしたらより苦しむかどうかの研究について、いじめっ子は最先端の科学を牽引している。
リア充破砕男は、まあこれは読者の想像とも願望とも一致するはずなのだが、子供の頃はいじめられっ子であった。では、この業火の想像はいじめっ子への報復的な思考かというとそうでもない。報復的な思考だというなら、その前にいじめっ子は皆リア充となるという偏見思考がそれに先立つ。
もちろん、リア充破砕男はそういう偏見のない男だ、というのでは全然ない。むしろ、その偏見を十二分に抱いた人間ではあった。
ただ、リア充破砕男は純粋に、いじめっ子などと切り離してリア充を憎み、それが業火に焼かれるところを想像したのだった。そういう点では邪念がなかった。邪悪極まりない思考だが邪念がないのだ。
さておき。核兵器がだめだとすると、もう少し現実的な手段を取らねばならない。というか、渋谷だからといっていつもより凄いことをしなくてはならないということでもない。渋谷でいつもの通り魔をするだけでも、十分に話題性が出るのではないか?
昔、秋葉原で無差別殺傷事件が起こった時、ある学者がマスコミから「なぜ秋葉原が選ばれたのでしょう」と何か象徴的な答を求められ「犯人が『人が多かったから』と自供しているからそのためでしょう」と答えたという。リア充破砕男はネット世論に流されたあげく深刻なマスコミ不信――不信、という受け身の言葉がふさわしくなければ、マスコミ罵倒――に陥っていたので、その答を喝采した。
リア充破砕男にとっては、「オタクの象徴としての都市」などというのを考える必要はないが、「リア充象徴としての都市」を考えるのはよかった。これは、オタクの被差別史を前提として逆不平等を讃える考え方であった。
この考え方は、変態撲殺女よりもひどかった。オタクなるのものが社会に認知されてたかだか数十年の歴史をもって、有史以来の女性差別と同等な扱いとしたからである。しかしながら、変態撲殺女も、たかだか有史程度の歴史をもって、生物の数億数十億年と同等の扱いをしているのだから、リア充破砕男のほうがひどいというわけでもないという考え方もあった。
しかし、結局のところ、別に渋谷全体などと、ラスボス的地位にふさわしいレベルまで破砕を大規模にする必要はないが、以前までの通り魔よりは派手にすれば、勝手に象徴的な意味を読み取った上、マスコミが――リア充破砕男はネットに毒されてマスゴミと呼んでいた――が勝手に拡散して話題にしてくれるだろう、という結論に達し、せっかく爆発物を扱えるようになったのだからそれを活かさない法はない、とばかり、適当に爆裂させることにした。
しかし、ハチ公像だけは避けることにした。死んだ主人を待ちつつ、毎日駅に迎えに行く犬が、好き放題合体して喜ぶ、リア充共の盾となって破砕されてはならない。だいたい、こんなリア充の街にハチ公はふさわしくないと、リア充破砕男は常々考えていた。
いったい、いかなる陰謀のためにハチ公像は渋谷に置かれることになったのか、と嘆くことも多かった。それはハチ公が出迎えた駅が渋谷だからだという、簡単な事実すらリア充破砕男は調べないのだった。
そんなわけでまあ、適当に見かけたオシャレそうな地帯を適当に爆破して通り魔して遊んだ。
それなりに阿鼻叫喚は起こったが、リア充破砕男は涙を流していたのは、被害者たちのためではなかった。
ハチ公のために、泣いた。
言いがかりのような涙だが、泣いた。
泣いた自分は、誰よりもタニンノキモチがわかっているのだという自負があるのかないのかはよくわからないが、泣いた。
ちなみに今回は、現場を変態撲殺女は通りがかってはいない。
なぜなら、彼女とて、たまにしか男がいない女だからだ。
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