第2話

僕は君に理解を求めているのではない。

ただ、もう僕は僕として存在する事に疲れてしまった。


ここまで読んだ上でそう判断した優しく愚かで軽率であるかもしれない小さき隣人に対する僕の中の愛は、残念ながらまだあまり、正しく伝えられない。もうすぐ本当に伝えられなかったことに変わるのだろう。これはそれとは関係ない何らかの過去の僕に対する僕の個人的な諦めに値する愚痴だが、本当に傷付けたくないと思う人ほど、人は安易に傷付けてしまうものであるらしい....。


ここは僕の滑稽な孤独さが故に生まれた結構虚無っぽい独擅場である。


結果として言える明らかなこととしては、僕は僕になり損なった。


記されている内容が全てシュールレアリスム※5にその意義を収束させる可能性を今の僕では否定しきれない。僕は無能な一個の他者(それは「僕」という概念をも包括し得る)の理解の及ばない生物であり、君たちに関してもこれはその限りではない。優秀で愚直な君のような隣人であるならば、暇な婦人達の昼下がりのお茶会での対話の内容ほどの価値すら持たないと判断することはあるいは赤子の手を捻るより難儀でなく、さらに言うならば就寝前に血迷った諸君が股間を自らの子に見立てて語った一時の絵空事と化した諸君の英雄譚よりくだらないものであると即座に理解できるはずである。


これ※6が根拠のない期待ではなく、自暴自棄に近い賭けの末に得たかもしれない一縷の望みであると解釈するのは、また君の勝手なのである。


少なくとも僕はそこを明示する気はない。


君が僕のこの滑稽さを笑える人物であるという確証の持ちようがない。真顔でも泣いていても笑ってくれていてもこの際大きな問題ではない。だからこそこれが存在すると逆説的に示唆が可能であるだろう。一切合切は多分存在するのであろう自己愛ゆえの無関心を内包したなんらかの愛情か、儀礼的無関心※7で片付けられるはずである。尚許容や拒絶、受容などに至る過程にある、なんらかのなにか、の分類に好奇心という概念の存在を踏まえた上での名称の識別は君の判断に委ねる。僕は何も分かっていないので、優秀な君の判断に従う気もない。またそれはもちろんのことだが、従わない気もまたないのである。


尚、瘴気という言葉は例えば水銀で中毒を起こす全ての生物に対して向けられており、発露という言葉が果たして文章で表記された真情との呼応が可能であるかは、この際僕が重要視するに値していない。君がもしくはなんらかの排他的な思想の主義者であるならば、無粋を承知の上で、個人的には僕に対して、死して尚遺り続ける連続した概念としての「僕」に対して、いっそ存在を忘れるぐらいに無関心であることを推奨したい。


どうかそうあってほしいと思う。


僕に加虐趣味があることは否定しないが、流石に道端の草を燃やす行為を人前で道化として披露するほどに自分に価値を見出せていない。

無作為の末に例え白百合を焼いていたとしても僕は決して後悔はしないだろう。散り行く花は、その儚さは冒涜によってこそその真価を発揮し、その種子はまた遠い遠いいつかに、もしかするともっと優れた、恐ろしいほどに美しく女性的なぽってりとした蕾をつけるだろう。

僕にはそれを見届けることはできないが、幾千もの時を超えて、露が葉からこぼれ落ちるその瞬間までは微細に知り得ていたいと思う。


もし君がここまでの文章を読んだ上で、僕と普遍化という概念に対する殴り合いがしたい精神的若さに溢れた活気のある人物であったならば、僕に対してその筋骨隆々の自慢の腕を奮うのはさすがに勘弁願いたく思う。君に人に暴力を振るう趣味があることはこの際僕の知る由もないが、一つ重要な認知として、僕に敵意はない。そしてそれ※8に関しては正直あまり考えたくはないので、配慮が成されていない。僕が自分にとって瑣末な事柄にまで激昂するほど精神的に幼く時間に余裕のある人物ではないと言い切ることは不可能だ。残念ながらそれは全く僕に推し量れる事柄ではない。

当然君がそう※9であるという可能性まで僕には忖度できない。

多分不可能ではないのだろうから可能ではあるのだろうが、骨が折れるし、様々な方面への筋を通すには言語の限界にぶち当たる。僕にそこまでの芸当をする気はない。


話は逸れるが、僕は0と1についてぞんざいに話した後に1/2の絶対値を持つなにか(もしくは逆数かもしれない)について言い訳がましく自明の事柄を表記する癖がある。


尚、僕にとっての解釈の一つとして例としての基底っぽいものを0と置いたにすぎなく、当然ながら励起っぽいなにかが1であるという確証もない。

多分時には9886246779908532368996577641269000180538653234329875323679009754113689098669876542124567888568907076857626891355985323685789888526348959595719521853158584

で、時に0.000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000001だ。


ふざけている。要するに正の無限大のどこかには属し、負の無限大のどこかではない。

そもそも閾値などというめんどくさい概念に対する理解はさほどない。


譲歩しているふりをしているに違いはなく、小さき人間だと笑った君は他人の矮小な精神性を笑えるだけのその素晴らしい半生を神にでも誇っていいだろう。


これはまったく興味深い余談なのだが、どうやら僕には自分に関しての客観的視野が皆無と言っていいほどにないらしい。


無論、他者に対する悪意はあるだろう。僕には他人という概念はなく、僕すらも他者に含まれているらしいというのは前述した通りである。そこに対して僕を殴りたいのであれば、さもあらばあれである。ジーザス!エリエリレマサバクタニ!メメントモリモリ飯でも食い散らかすしかない。そうなると君の精神性に対しては穏便で名高い僕も流石に一言言わせてもらう必要が出てくる。君は毛が生えていないという理由で、劣性遺伝子を形質として発現させた人間に対しての自分の嘲笑がポリティカル・コレクトネスに配慮されたものであると判断するのは最早意識の範疇になく、かつベジタリアンが至高だと信じて疑わず肉食の人間を叩くタイプの人間らしい。


ところで、これも興味深い余談だが、僕は無宗教である。

宗教も科学もUFOも、信じれるからこそ悲惨で、だからこそ信じれる限りは救われるのだろう。

救いがあるということが非常に残酷なことに思えてきてならない。


最後に言うこととしては、ここまで僕の全身の武器と使用用途をハートウォーミングを交えながら暴露しつつホールドアップしているのに、火炎瓶で殴りつける真似を一切の躊躇なく行動に移すかもしれない君は非人間的である。

マジョリティにその烙印を押された僕さえでも苦言を呈するほどの情に流されない宗教的な合理主義性がある。

なんらかの形而上学的な絶対を持っているのだろうか。

なんらかの絶対的な概念を持ち合わせているがゆえの排他的思想の主義者であるならば、個人的にはこの覚え書きを読まないことを強く推奨したい。


一切合切の矜恃をかなぐり捨てるならば僕は今なんらかの接触をされると発狂するくらい人間が嫌いな僕に一時的に戻っている。


ここまでの文章を踏まえた上で一体僕が何にそこまで怯えているのかと純粋に僕の恐怖に気付き、あるいはその原因、理由を知りたいと思い得た君に関しては、君がその純粋さを持った上で人を殴れる人間でないことを僕からは個人的に祈りたい。


僕が怯えているのは世界ではなく、あるいは多分



以上、内容



補足:

最後のページの内容は、狡猾が破り捨てたとされるため不明。なおその後の狡猾の動向も不明。



※1 『君』が繊細(この場合多義的)であるという可能性。『僕』の無機質であるかもしれないオマージュについての反省的な言及


※2 独白。この場合、ダイアローグをイメージされた独白全体を指す


※3 『僕』が『君』に申し訳を立てる際に使用したとされるなんらかの暴力性


※4 ※3に同じ


※5 超現実主義と訳される北欧の概念。フランスの詩人アンドレ・ブルトン(1896年 - 1966年)が提唱したとされる


※6 『君』に対する要求


※7 『僕』の尊敬する人物が好んで使用していた概念。1998年製作のギリシャ・フランス・イタリア合作映画、「永遠と一日」の登場人物に対して主に使用された。某作はカンヌ国際映画祭で最優秀賞パルム・ドールを受賞。監督はテオ・アンゲロプロス。日本では、Mr.Childrenの「過去と未来と交信する男」などのパロディ作品が有名

キーワード:アーヴィング・ ゴッフマン(1922年 - 1988年)

キーワード(?):「少年の日の思い出」


※8 『君』に存在すると仮定された、なんらかの抑圧された暴力性


※9 『君』に存在すると仮定された、『僕』を包括する知性






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