アンタの旦那ハン、もういらんわ、返します。丸子より

夏 雪ん子

第1話

 こんばんわ。

奥サン、うちは今までアンタはんの言いたいことおとなしく聞いていましたが、もうここで切れました。コッチもいいたいこと少しはいわせてもらいます。


ハイハイうちはアンタはんの旦那はん、たしかに盗りましたよ。ごめんなさいです。

でもね、あんた、「後妻業の女」見てません?あれと同じでっせ。あんたはんの旦那はんは剥げてて、小そうてちーとも男前はんと違いまっせ。誰が好きでたらしこみますかいな。

まあ、うちにも、うちの事情ってもんがありましたんや。それはな。


ストレスいうもんが当時6年前パンパンでしたんや。それはうちの旦那はんは、やはりよそで女つくっていて、うちがいくらおしゃれして、「みてみて」、いうても見向きもしてくれはらへん。

うちんちは、うちの実母、少し認知症で、わが家に数年前から同居させてもらってますねん。それもうちの旦那はんにはおもしろーないみたいなんや。ウチは家庭では母親と旦那はんの板挟みで苦しゅうてな。その葛藤で、数年前、うち自身が癌をわずらってしもうたんや。


奥はん。あんた、しあわせでっせ、どーこも悪いとこあらしませんやろ。うちはそれこそ、悪いとこだらけや。自分も母ーちゃん引き取っているもんで、お金もかかる。癌ちゅう病気はそれこそお金との戦いや、普通の保険の治療やったらそれこそ、すぐおじゃんや。それで、お金稼ごうと派遣に登録させてもろて、運よくあんたはんの旦那ハンの会社へ潜り込めたっちゅう訳や。


それからがちょっとばかし、いけませんでしたわ。あんたんとこの旦那はんは、誰が見てもスキだらけや。トッチャンボウヤみたいなとこあって、女としては,ネギ鴨ですー。なにいうても、いわずとも、簡単にたらしこめる、男はんってわけでしたー。


勿論、会社に旦那はんがいるときから目ーつけときました。だって私いつか役にたたせそうな気ーまんまんでしたもん。わりあい、気ーつくし、誠実そうなとこもスッゴク気にいってましてん。

いつか本気そうな顔してくどいてやろう、思てましてん。チャンスはやがてやってきました。

旦那はんが他へ異動になりました。ウチ、シメタおもうたんですー。このチャンス逃す手はない。おもうたんです。そやからすぐ、同僚の叔母ちゃんの定年をいい口実にしょうと思いついてメールして、「Sさんがが定年で辞めます」、

旦那ハンの新しい会社にメールしたんです。そしたら、思ったとおりすぐ返信がありました。

「それなら、私からと言って、売店に売っている香水買って渡しておいてください。すぐ出張でそちらにいきますので、その時お金は返します。」

誠実そうなお返事。もちろん即刻承諾して、ついでに、三人の楽しい会食を提案いたしました。

モチ旦那ハンは快諾ですわ。多分モテタ事なんて女性からの食事の誘いなんて金輪際なかったんでしょうな。大喜びででとびついてきましたわ。


旦那はん調子づいて、新しい職場の自慢しはったな、景色抜群ですって。「よかったら是非きてください、案内させてもらいますー」いうてホクホクでしたんですわ。


そりゃなー、まえから狙ってた、時間に余裕のある絶景ポイントの職場にうまくすべりこめたんですもん。上機嫌ですわいな。


「そしたら、近いうち女性二人でお邪魔させてもらいます」

て返事して、すぐ伺いました。もうどんどん立て続けに、ふたりして職場訪問させていただいて、褒めまくりいい気分にさせてあげました。

一人の男つりあげんのけっこうしんどいんでっせ。言わなくてもいいことまで言ってあげて男を上げさせてるんですもん。ま、いい気持ちにしてあげるんですー。ご機嫌にいごこちよくね。たのしい気分てやつですよ。


まあ、おたくの旦那はんについていえば、男力レベル低いから、特に特別なことはいわん。でも、あたしら二人行っただけで、もう、その気になりましたんや。こっちの思う通りによく動くようになりました。そりゃーおもしろかったですわ。


どこでもつれていってくれました。レストランでもカフェ-でも。奥はんにウソついて休暇とってですよ。わがままもうんというと喜ぶんですわ。かわいいもんですー。奥さん知りませんでっしゃろ?お宅の旦那はんけっこう、あれで女好きですよ。そう、すけべなんですー。ちょこっと、甘えてみせたり、流し目すると、小躍りしはりますのん。

だから、奥さんは怒りはりますけど、旦那はんは結構楽しんでいたんですよー。うちらのおかげでいいおもいしてたんですー。


そうですね。6年はやはりやりすぎましたね。ダンナはんもアタシも今年3月退職になったのに、うちが2月のデートの時ですが、そんときは旦那はん一日うちの為に使ってくれたんですよ。多分旦那はんはこれで会社っちゅう隠れ蓑ももうなくなるよってこういうのは辞めよう、おもうたんだとおもいます。

そりゃー大変。うちはなんかせにゃー。もう旦那ハン捨てられ奥さんとこへ帰られちゃう、おもうてあせりました。そんでまた流し目つこうて甘えてみたんですー。

「うちダンナはんとのデートの前の晩は小さい時の遠足の前の晩みたいに嬉しゅうてドキドキしてようねむれませんの」、いうて、泣いてみせたんですわ。

ひっかかりましたよ。旦那はん、目がうるんでましたもん。「少女みたいだな、可愛いよ、君は」いうて、、、。


デートが終わって帰る時もなにもいわず、黙ってうちらを、いつも通り駅までおくってくれました。

いつもどおり翌日、写真も送信してくれました。ウチのあげたクッキー、美味しかったとコメントつけて。

一言も別れ話はなかったんで、ウチは正直ホットしました。

「よかったー捨てられなかったー。」

うちもこれでも殊勝なとこもおますねん。やはり男一人に捨てられるのは、たとえ、夫がいてもショックですもん。

うちはいつも通り、「退職おめでとう。記念にハンカチおくります」

とメールしました。シメシメ。


あとは奥さんもしってのとおり。お互い旦那はんとうちはずっと自宅からメールをなかようしつづけました。勿論ダンナはんは奥はんがいないとき見計らってメールくれたんだとおもいます。

とうぜん、またさみしくてうちがねだって又三人でデートしょうとしてた所を奥はんにみつかりましたんや。驚いたことにまさかの展開。

だって浮気男がスラスラ妻なんかに何もかもしゃべると誰が思いますかいな。

常識でっしゃろ。そこがうちのあまかった所ですわ。

おたくの旦那はん浮気男としてはあかんわ。女と浮気するいじょう。相手のおんな、妻の襲撃からまもるのあたりまえやろ。墓場まで口固とうしてもっていく話やろ、これはー。というのはうちの勝手な常識やけどな。


奥はん。あんたやきもちやきですなー。まあ、実はうちも自分の旦那はんが女いてますやろ。いっつも同じように騒ぎよりますけどな。気持ちはわかりますー。


今さら信じてもらえないだろうけど、うちらはいつも三人、従って手―だけは出してません。だってお宅の旦那ハン剥げててちょっと気持ち悪い。いい人だけど、体合わせる気ーだけは起こりませんでした。まっ、うちが誘えばちょろかったとはおもいますよ。でもなー。うちも己の亭主の浮気でさんざ苦しんでいる身ーですー。流石にできませんでしたわ、それだけは。

奥はん勘弁してや。


とにかく旦那はんは実にいい人でした。もう全て過去ですー。6年、少しだけうちの幸せのため利用させてもらいました。チャーント今返しますー。


そうそう、あんたハンの旦那ハン、奥ハンの事アイシマスヨ、アタシが保証しますー。


お怒りごもっともです。でも思い出もなにもかも、「あっとこれは無理か?取り返しのつかない既成事実だもんね」そっくりかえして二度と手ーだしませんから。気持ち納めていただけないでしょうか?本当にごめんなさい。お互い、いい年だし、美容にわるいですもん。

ウチも今回は奥はんに大分さわがれて、自分の旦那はんにうんとお灸をすえられ、痛うてたまりません。


今後は人生お互い余りくるしまず生きまひょう。なんて言える身ではありませんね。


すみませんでした。二度としません。ごめんなさい。お許しください。合掌。

終わり

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