第85話 これにて一件落着!
――それでは、朝日家の
どうしてこうなったのか? 朝日と深夜子が武蔵区男性総合医療センターへと搬送されたあの晩。そこから順を追って説明させていただこう。
救急輸送ヘリの中。朝日は気絶したのみだったが、必要以上に心配されるのが貴重な男性。翌日一日は検査入院になる。ちゃっかり担当を
一方の深夜子は全治三ヶ月の重傷。内臓に損傷が無かったのが幸い、と言うか、
もちろん、五月はすでに事後処理に追われていた。移動中のヘリ内、男性総合医療センターに到着すればロビーで、四十八時間耐久デスマーチのスタートである。
――翌日、早くも事件発生。さすがの深夜子も手術翌日は病室のベッドでぐったり。点滴やらバイタル管理やらで機械も多く。見た目はやたら物々しい。そこに、目覚めた朝日が五月に付き添われやってきた。
「あああああああっ! 深夜子さん、深夜子さん! やだぁ、やだああああああっ!!」
「朝日様、落ち着いてくださいませ。深夜子さんは麻酔が効いているだけですの。手術も無事成功しております。命にも別状はございませんわ」
「僕のせいだ! 僕がいるから、僕がいるから、深夜子さんがこんな目に、うわああああっ、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! うわあああああああああん!」
「朝日様!? 朝日様ぁ!!!」
朝日は過去に無い動揺を見せ、泣き叫び崩れ落ちた。センター内は騒然。心療内科の医師も飛んできての大騒ぎとなる。さらに、その声で深夜子が目を覚ます。
「ア、アサヒクン。アタシゼンゼンヘイキダヨー」
看護師たちが止めるのも振り切って、朝日に空元気を見せつける始末。当然、傷跡がしっかり開いて手術室ヘ逆もどり。なんとも落ち着かない初日であった。
――二日目。朝日もようやく落ち着き、深夜子も順調に回復の気配を見せる。五月の事後処理は、目元のクマのサイズと同様にピークを迎えていた。
深夜子が録音してきたデータを元に、影嶋一家の男性略取準備罪を立件。残すは男性保護省から男性警察への動員要請。一気に影嶋一家解体を進めれば任務完了、と言って差し支えない。
「えっ? 矢地課長が海外出張ですって!?」
「おいおい、矢地の野郎……タイミング
トラブルとは続くものらしい。こう言った決裁権を持つ責任者の矢地が長期の海外出張。それも、最近世界的に注目を集め始めた芸能・芸術分野の世界大会。その招致活動を視察するため開催候補地へ。非常に遠方で時差も大きく、即時連絡は不可能に近かった。
「これは……困りましたわ。ただでさえ取り逃がした組員も多いですのに。みすみす相手に時間を与えることになるのは、痛恨ですわね……」
「矢地の代理じゃあダメなのかよ?」
「無理ですわ。公務員に越権行為はご法度ですわよ。どちらにしても矢地課長と一旦繋がるまで待つしか……ありま……あ、朝日様?」
「どうした朝日? さっきから誰と電話してんだ、珍しい」
五月たちがあたふたとしている横で、朝日はどこかに電話をしていた。この状況で朝日が連絡する先が思い浮かばない五月と梅は、気になって聞き耳を立てる。
「はい。それで、五月さんも困って……え? あ、僕は大丈夫です。でも、深夜子さんがひどい怪我をして……うっ、……あっ、いや、な、泣いてないよ。うん。――じゃなくて、はい。……え? ほ、本当ですか? ありがとうございます! えと……じゃあ、よろしくお願いします。
「弥生……?」
「おばあちゃん? ……だあああああっ!?」
五月と梅の顔色が変わる。
「あ、あああさひさまああああああああああ!!」
「えっ!? ど、どうしたの五月さん?」
「まままままままさか、まさかっ、今のっ、お電話のっ、お相手はっ、り、りりり、
「うん、そうだよ。五月さん困ってたみたいだから」
「ひええええええええええええっ!」
「うおおおおいっ! よりによってババアに頼んじまったのかよ?」
「あ、あれ? あれ?」
事件その二。まさかのトップダウン。本日、男性保護省と警察庁は蜂の巣をつついたような騒動となる。一件落着後。五月は
――三日目。無事? 影嶋一家解体の運びとなる。男性警察特殊部隊三十名に加えて、陸軍からも腕利きの一個小隊が派遣された。ところが、桐生建設がしぶとく裏で反発の動きを見せていた。
自身の関連組織である暴力団”鬼竜会”から援軍を派遣。なんと五十名近い武闘派組員を影嶋一家の事務所に待機させていた。これは本格的な抗争になる。情報を知った現場に緊張が走った。
ここで事件その三が発生。もちろん、こんな時と言えば大和梅である。武蔵区にある影嶋一家の事務所。繁華街から少し離れ、閑散とした通りにある無表情な三階建コンクリートビルだ。
早朝。秘密裏に人払いされたその通りに、男性警察と軍の連合部隊がマイクロバス数台で到着。バスを防壁に素早く部隊を展開。部隊長が突撃のタイミングを見計らおうとしたその時、異変が起こった。
「うぎゃあああああああっ!」
「ひいいいいいいいいいっ!」
突如、事務所二階のガラス窓を突き破り、組員とおぼしき女性が落下してきた。それは一人で終わらず、部屋を変え、階を変え、次々から次へと悲鳴をあげ落ちてくる。
「くっ、くそおっ!? なんだこのバケモンはぁ!?」
「ばっ、バカなぁ!? ド、ドスが刺さらねえ!?」
「じゅ、銃弾を受け止めやがったあああああっ!?」
「この女の風上にも置けねえクソどもがぁっ! てめえら……
「「「ひぎゃああああああああっ!!」」」
今回、部隊に加わるのを志願して却下された梅。なんと、単身で殴り込みを掛けてしまったのだ。深夜子を見て泣き崩れた朝日。傷付いた後輩にして親友。朝日や五月の前では平然を装っていたが、内心は完全にぶちギレていたのである。
恐るべきはその結果。連合部隊が急ぎ突入した時には、事務所内はすでに血の海。総勢四十七名の組員たちのほとんどが半殺しという惨状。梅自身も銃弾数発、十数ヶ所に及ぶ刃物での刺し傷、切り傷を受けていた。が、なんの冗談か、全治一ヶ月の重傷で済んでいるのだから笑えない。
当然ながら、命令無視に加えての私闘。弥生から温情はあれど、二週間の停職処分となる。ここで本来なら、謹慎中の梅は朝日家に滞在できない。しかしこれに対して、朝日が頑として譲らなかった。
結果、男性保護省側が折れて、梅は朝日家で謹慎と言う、謹慎なのか休日なのかよく分からない処分となった。男性に対して甘々なのは相変わらずの世界である。
――この一連の事件から、朝日の担当Mapsが五月一人という事態になってしまった。必然、待機中のMapsからヘルプ派遣となる。まず、餡子は梅の指名に過去のヘルプ実績もあって即決定。
残るは深夜子のヘルプでもう一名となるのだが、ここで弥生が面白がって寧々音を指名。ヘルプ希望者に加わえて、実力選考テストへ参加させたのだ。そこで寧々音は、最終選考に残ったAランク一名、Bランク三名をも蹴散らし、愛しのお兄様の
余談だが、最終選考で寧々音にあっさりと蹴散らされたBランク三名は、三条、門馬、鹿松の三馬鹿トリオであった事を追記しておく。
――以上。これで話は冒頭に戻る。そして、賑やか極まる朝日家で、さらに一週間が経過する。
梅の謹慎が解け、深夜子ともども、警護任務に支障が無い程度に回復したと本人たちが豪語。そんな二人がそろって任務可能か診断を受けたところ、担当医師が『そんな馬鹿な、そんな馬鹿な……』とつぶやきながら診断書を作成することになった。お気の毒。
さて本日は、餡子と寧々のヘルプ終了前日。朝日家は六名全員で、あるところに来ていた。
「わー、お久しぶりねー朝日ちゃん。会えて嬉しいわー。もう大丈夫なのー?」
「はい! もう元気ですよ。
外出先は武蔵区の五月雨家であった。五月の母『
「そー、それは良かったわー。あっ、朝日ちゃんにーイジワルした子はー、ママが”めっ”てしてあげましたからねー」
桐生建設の子会社、鬼竜会の末端組織。その幾つかは、何者かによって潰されたとの事だ。へー。
「
「だな! 五月、期待してんぜ」
「もちろんですわ。朝日様のため、二週間の突貫工事で準備万端ですわよ」
「ふおああああああっ!? か、金持ち、これが金持ちの家っスか!?」
「す、すごいわね。さすが五月雨先輩の実家だわ。でも、今日は、朝日お兄様と
「す、すごい! この建物って、今日のために? うわあっ、温泉なのになんだかレジャープールみたい! じゃ、水着に着替えてみんなで入ろうよ!」
「「「「「おーーーーーっ!!」」」」」
朝日にとって不本意に終わってしまった温泉旅行最終日。少しでもフォローしようと、五月を中心に立案・建設した『屋内プール型温泉施設』。今日から朝日とMapsメンバー全員で、賑やかに、一泊プチ温泉プール旅行を楽しむのであった。
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