足つった
突然ですが、私は今、足がつっている。
電車内、つり革を持たずにリズムゲームに勤しんでいたら、ピキッという嫌な感覚と共にキてしまった。
なんとも言えない足の指の痛み。
目の前にはサラリーマンが座り、横にもサラリーマン、後ろにもサラリーマン。
いわゆる帰宅ラッシュという時に、よりにもよって足がつるなんてそんなバカなことがあり得るのだろうか。
いや、あり得たのだ。
下手に変な顔も出来ないこの状況。
地獄!
平静な顔をキープするために、口内を噛みちぎる勢いでガジガジと噛む。
とにかく痛い!
なんとか治そうと足をつま先立ちの状態にしたりするも治らない。
無駄骨!
三重苦に苛まれながら、リズムゲームは続けるこの根性。
正直に言って、誉めてほしい。
なんとか、難易度エキスパートをクリアしスマホの電源を一旦落とすと、リズムゲームに分散させてた意識が足の指に集中する。
「んぐ……っ」
思わず漏れた、悲鳴とは言いがたい変な声にもめげず、片足だけを上下させる。
こんなに大勢の中で一人、足をつっているなんて……なんて惨めなんだろうか。
スマホの電源を落とす前に、妹に送った足つり報告にもなにも返事が来ない。
姉はとても寂しく思う。
今なら地球の真ん中で愛も叫べそうである。
なんと言っても、足の指を限界まで反らすために跪きたいのだ。
ダメだ。足痛い。
こんなときに限って席も空かない。
そう!こんな時に!限って!席も!空かないんだよ~。
人知れず悲しみと痛みにくれる私。
なんか悲劇のヒロインっぽくない?
主演女優賞以下略を総なめにする勢いがある。
私はー♪今ー♪足がーつっているー♪つっているったら♪つっているー♪
なんてことなの?!足がつっているだなんて!そんな痛いことがあるもんですか!
と、ここまで考えて、私はふと我に帰った。
足……治ったくね?と。
足……痛くない。と。
「……足ーーー!治ったーーー!!」
BGMに「威風堂々」が車内に鳴り響いた。
隣を見るとサラリーマンがニッコリと笑ってスマホの画面をコツコツと叩いている。
その画面には「威風堂々」の文字と三角形の再生マークが表示されている。
彼は気づいてくれていたのか!
私は一人じゃなかった!一人じゃなかったーー!
彼と熱い握手を交わし抱きあう。
「ありがとう!ありがとー!」
拍手が鳴り響く中、両手を挙げて私はガッツポーズを決めた。
……ところで妄想から現実へと引き戻された。
ガタンと一際大きい震動のあと電車は停まり、プシューと扉が開く。
「○○駅~○○駅~お降りの際は~……」
車内アナウンスからはいつも通り独特のしゃがれた声が響き渡り、前後左右のサラリーマンは気だるそうにスマホを見つめている。
丁度真ん前の席からサラリーマンが降りていくのを見計らって、私は席に座った。
まだまだ電車の中の帰途は続く。
心地よい揺れに意識を揺蕩わせながら、私は思った。
もう少し夢(妄想)の中に浸っていてもいいよね。
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