JKといい大人が世界に愚痴るだけ

「はい!というわけで今回は愚痴愚痴大会をやりたいと思います!」

 部室でごろごろしていたら顧問が急になんか言い出した。

 私の名前は岸間きしま彩音あやね。どこにでもいるようなJKでありながら文芸部の部員でもある。

 私たちの文芸部はいわゆる、ゆるゆる系の部活で基本的には読み専で気が向いたときor文化祭の前にだけ作品を書くっていう感じの部だ。まあ、大抵の人たちが兼部だししょうがないかなって感じでもある。

 そんなんでよく存続が許されているなって感じだけれども顧問の三島みしま加奈かなが理事長先生の娘さんってことで色々と許されているらしい。なんというかそれこそラノベとかだったら敵役として出てきそうなことしているなって私は聞いたときに思った。まあ、どうでも良いけれど。

 そんなわけで私は文芸部としての部活動(と言っても部室のソファーでラノベを読んでいるだけだけれども)をしていたのだ。

 そうしたら急に顧問が表れてその平穏をぶっ壊しやがったって話。


「どうしたの?加奈ちゃん」

 ちなみに彼女は皆に下の名前で呼ばれている。新卒の先生だしなんていうか全体的に軽い雰囲気なのでそんな感じ。現代文の先生だし授業自体はかなり上手いんだけどやっぱり緩くて舐められている。と言うよりは親しまれているって感じだ。けれども正直似たようなものだよねって思うけれど。

「加奈ちゃんって言うのは辞めてよね。私はあなた達より年上なんだしさ~」

 そんな風に拗ねながら言う。そういう姿が子供っぽいんだけど普通に可愛いので特に言うことはない。見れなくなったら嫌だし。ぜひとも可愛いあなたのままでいてください。卒業するときになったら教えると思うけど。

 意地が悪い。

「はいはい。分かりましたよ加奈先生」

「分かればいいんでsってちょっと待って!?かなり突っ込みどころ多いんですけどぉ!?」

「っち騙されなかったか」

「舌打ちするならもう少し隠してくれないかなぁ?」

「先生は元気いいなぁ」

「誰のせいだと!」

「先生の元気は先生の魅力ですよ。あなた自身そのものです。誇りに思いましょう」

「ちょっといい風に言ってるけど、君がからかってくるから突っ込んでいるという事実は忘れないでね?」

「やだ、突っ込むなんて卑猥です。まだ夕方にもなっていないのに」

「夕方になっててもアウトでしょ!」

「……突っ込むところそこじゃないと思いますけど」

「はっ。嵌められた!さては君は策士だな」

「あなたがチョロいだけでは……?」

「あー。辞め辞め。岸間に口喧嘩じゃ勝てるわけないし。それより本題」

 加奈ちゃんは怒涛のようにした会話を無理やり打ち切って話の続きを始めた。その本題があまりにしょうもなさそうだったから逸らしたんだんだけれど。それを理解しているのかな?なんて思う。


「君はこの現実世界をどう思う?」

 キリッと効果音がつきそうなほどに決め顔をしながら彼女が問いかけてきた。

「え?とりあえず加奈先生が死ぬほどウザいからさっさとラノベ読みたいなって思ってるけれど」

「そういうことじゃないよ」

 ちっちっちと指を振りながら彼女は否定する。そういうモードに入った時の彼女は

 私がいくらからかってもぶれない。そしてウザさもすごい。因みに授業中も問題の解説をしていたりする時はこっちのモードだ。

「基本的にこの世界ってクソじゃん。死ぬほど退屈だし、足を引っ張てくる奴の声は耳障りだし、思い通りにいかないことばっかりだし、それになにより辞めることが許されていない」

 舞台の上にでも立っているのだろうか?と思うくらい大げさに、情熱的に宣言している。声もビジュアルも普通にレベル高いし感情がすごい乗っててアニメのワンシーンかってくらい画になっているんだけれど、それがむしろ発言の残念さが際立てていて何とも言えない気分になる。

「かなり敵を生みそうな発言ですね……。というかあなたが頑張っていないからそうなのでは……?」

「あ、そういうマジレスは求めていないので」

 急に平坦に戻って彼女が答える。

「さいですか。で?今日は何が有ったんですか?」

 これで少しは話しやすくなったと一息ついて話を持っていく。彼女がこうなるのは決まって何かがあった時なのだ。  

 いや、マジでいい大人がちょっと他の先生に何か言われたくらいで生徒に愚痴るのは辞めてほしい。と言うかせめて授業で愚痴れよって思う。嘘だけど。

 こんなダメダメな先生を他の人に見せるなんて絶対に嫌だ。


 私はソファにきちんと座る。すると彼女は靴を脱いでソファに寝っ転がる。スペースが足りないから自然と私が彼女を膝枕する形になる。

 いや、別に普通に嬉しいけれど躊躇いが無さ過ぎて普通にビビる。

「ねえ、聞いてよ彩音~」

 加奈ちゃんは甘えるような声を出して目を閉じる。

 それに私はしょうがないなって苦笑しながらソッとキスをする。そして綺麗な茶色の髪を撫でる。軽くウェーブのかかった髪はよく手入れされていてとても気持ち良かった。


それがスイッチ。


「はいはい。なんですか加奈」

「あのババアさあ、髪を染めろってうるさいのよね」

 ニコニコと笑顔でそんなことを言い出した。

「黒髪じゃないといけない、とかさ古くさい校則振りかざしてさ。そんなんしてるから私にポジション取られるんだっつーの」

 笑顔で吐き捨てる加奈に思わず笑みがこぼれる。


 さて、とここで少しだけ私達の学校についてお話をしよう。The説明ってやつだ。よく偉そうな人達がしたり顔でなんか「無理矢理だよね~(嘲笑)」とか「もっと自然にやらないと~」みたいなこと言ってるヤツ。

 説明するんだから説明口調になって当たり前だろうがって思うけどそれはそれとして。

 私達の学校は簡単に言うと自称進学校ってやつだ。だから当たり前のようにクラス分けがある。進学コースと普通コースみたいな感じで。

 私?私は進学コースだよ。あんなん志望するかどうかの違いだ。やる気とかで判別するから自称のままなんだよな~ってのは加奈の発言。色々な所に喧嘩を売ってて笑う。

 失敬。話が逸れた。

 要は加奈がその進学コースの現代文担当の座についたって話だ。

 それに僻んだ元々その座についていた女教師が彼女にぐちぐち言ってきたらしい。いや、正直その教師もそこまで酷い先生じゃないしなんなら普通に優秀な先生だと思う。少なくとも私は好きだ。

 だから私にソレを愚痴らないでほしい。普通に嫌になるし。

「まあ、生徒の地毛でも染めろって言うらしいしね」

「いや、それ普通に炎上してるし。古くさいって風に統一されてるじゃん?そんなんでネチネチ言ってきて進学コースの担当の座を返せって言われてきてもウザイんだよ」

「それもそうだけど……。まあ進学コース担当から下ろされてって外聞悪いじゃん?それに彼女も普通に実力は有ったしさ」

「所詮、普通じゃん。普通に上手いごときの実力だからコネで奪われたヤツにも負けるんだよ」

 そう言って加奈はケラケラ笑う。性格悪すぎない?

「彼女もすぐに加奈が生徒から反発されると思ってたんだろうね。それで満を持してポジションを取り返すつもりだったんでしょ」

「いやそれも分かるけどね。でも私が天才な可能性を考えられなかった時点でやっぱ負け犬なんだよね。コネってのと見た目で舐めすぎなのよ。ざまぁみろ」

 可愛い系の人が純粋に性格が悪いの聞いててゾクゾクする。その悪意が自分に向いてないからだけど。

「まあまあ、落ち着きなって。それで何て言ったの?」

「え?生徒から私を罷免させるくらいの授業も出来ない人が偉そうにしないでって言ったけど」

「マジで悪役ムーヴじゃん……」

 あっさりと言った彼女に私はドン引きした。間違ってはいないけど。

 コネだろうがチャラかろうが分りやすい授業をしてくれるならどうでも良いってのが私達のクラスだ。

 ……やっぱ歪んでるよなぁ。


「この学校らしいでしょ?」


 加奈はにっこりと笑った。


「確かに」


 これが私達らしさって言うのも気にくわないけれど。

 でも、確かに私達らしい感じだ。加奈は進学コース担当の先生にふさわしい気がする。するだけだけど。

 呆れながらも分かるなぁって言って笑う。

 お疲れ様。なんて言って頭を抱き締める。


「もう、良いよ」

 とそっと腕を叩かれる。


 それを合図にそっと体を離す。

「これで私の番はお仕舞い。彩音は何かある?何でも受け止めてあげるよ」

 そう言って私の瞳を見つめる。

 その声は私に遊ばれていたときのソレとも、他人を吐き捨てるときのソレとも、授業中のソレとも違う慈母みたいに全てを包み込むような声だった。


 優しくて蕩けてしまいそうな声はまるで毒みたいで、あんなクズい側面も有るくせに聖人みたいに見えてきてダメだって思うのに流されそうになる。

 そんな彼女の意味不明で理不尽な魅力に振り回される私はそれでも私が彼女をリードしたいと思うから唇を噛み締めて堪える。

 そして笑うのだ。


「そんな性格の悪いことはしないよ。性格が悪いのは加奈だけ」





 ちゃんちゃん。

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