あと2日

 クリスマスイヴまであと二日。

 より一層クリスマスグッズが並ぶ街を今日も一人で歩く。

 そしていつものように、広場に少女がいた。

「今日も一人?」

 余計なお世話だ。

 僕は何も言わず少女に近づく。

 昨日かけてやったマフラーも、無造作にかけたままだ。

 上着やマフラーは雪にまみれているが、身体には雪が付いていないから出て来たばかりか?

 僕をからかうにしては手が込みすぎだ。

 きっと毎晩同じ時間に出ているんだろう。

 僕が後で取りに来るかもと思って上着とマフラーを置いて帰ったんだろうか。

 あげるつもりでかけてやったんだから気にしなくていいのに。

「フラれちゃた?」

「フラれてないよ」

 多分ね。

 さすがに僕の一人妄想だと思わないでもない。

 ユキエにとって「彼氏」なんてのは友達の一部なのかもしれない。

 周りの男は皆彼氏で、僕なんかそのうちの一人なのかもしれないな。しかもドンケツの。

「どんな人なの? 彼女」

 どんな人だと聞かれても……、よく知っているわけじゃない。

 誰もが認める美人で、明るくて、友達がたくさんいる。僕なんかには勿体なくて、真逆の世界に生きている。鏡の向こうにいる、まるで異世界にいるみたいな人だ。

 というような事を独り言を呟くように言った。

 僕自身、言った事をよく覚えてないくらい、心はそこになかった。

「何それ。まだ一度もデートした事ないの? 今までずっとすっぽかされてたワケ?」

 少女は呆れたように言う。

「それって付き合ってるって言えるの?」

「言えないかもしれないな……」

 つい口をついて出た。

 こんな女の子に弱みを見せてどうするんだ、とも思ったけど、今は虚勢を張る元気もなかった。

「電話して直接文句言いなさいよ」

 番号は知らない。メアドだけだ。

「家に直接押しかけちゃえば?」

 デートもしてないのに? 図々し過ぎるし、家も知らない。

「騙されてるんじゃないの? 本当は気付いてるんじゃないの?」

 黙りこくる僕に彼女は声を荒げた。それに僕は力なく精一杯の反論をする。

「そんな事ないよ」

「何言ってんの! こんだけドタキャンされて気が付かない方がどうかしてる。遊ばれてるんだよ」

 てっきり大笑いするものと思っていたので、彼女の剣幕に少し驚いたが、言葉の内容は許していいものではない。

「なんだよ。彼女の事何も知らないくせに」

 僕と話した時のユキエはとても朗らかで、優しかった。僕をかわいいとも言ってくれたんだ。

「分かるわよフツー」

 尚も食い下がる少女にしばらったんだとやり合った。

 少女はやや疲れたように言葉を切り、溜め息をつく。

「その彼女、茶髪でよくやけてない?」

 う……、と僕は言葉に詰まる。

「胸が大きくて、これみよがしにはだけさせてるでしょ」

 そ、それは今時の女の子には大抵当てはまるんじゃ……。

「珍しく誘われた場所にいて、優しくしてくれたんだ」

 それは、さっき僕がそんなような事を言ったから……。

「途中でみんな申し合わせたように居なくなって、うまい具合に二人きりになったんじゃない?」

 僕は顔を引きらせて固まる。

「し、知ってるだけなんじゃないの? ス、ストーカーかキミは」

 少女はぷぃとそっぽを向くように樹の上に目線を戻す。

「この辺りじゃ有名よ。あなたツイッターとかもやってないでしょ? 友達居なくて、人が良さそうだからターゲットにされたんだよ。これだけすっぽかされてもまだノコノコ出てくるなんて。今頃彼女は男友達と一緒にゲラゲラ笑ってるわよ」

「そ、そんな人いるわけないだろ。そんな酷い事……」

 人の心を踏みにじるような、そんな事をユキエがやるはず……。

「初めて女の子に優しくされたからって舞い上がっちゃって……」

「いい加減にしろ!」

 僕は我を忘れたように大声を上げた。

「お、お前に何が分かるんだ! 彼女の事を知りもしないで。じゃあキミはウソでも僕と付き合えるって言えるの? 好きでもない相手に好きだって言えるの? 相手の気持ちを少しでも考えられるなら、そんな事できるわけないって分かるでしょ!」

「私は……」

「もう死ぬからって言うんでしょ。そんな元気で、簡単に死ぬ死ぬ言うキミの方が、よっぽどどうかしてるよ」

 僕はそのまま走り出す。

 それ以上は何も言えなかった。

 言いたい事だけ言って逃げ出したみたいになるのは嫌だったけど、それ以上何かを言おうとすれば泣いてしまいそうだった。

 僕は唇を噛んでゆがむ景色の中をうつむいたまま家に帰った。

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