あと5日

 次の夜。

 昨日に増してクリスマス気分で盛り上がる街を一人歩いていた。

 今日は昨日の埋め合わせデートだったんだけど……と先程中身を確認した携帯電話を握りしめる。

 今回も彼女は来ない。

 いわゆるドタキャンというやつだけど、そもそも僕は待ち合わせをするという事がない。今までドタキャンされた事すらなかったんだ。

 これからは大手を振って周りの友達のように「ドタキャンされちゃってさぁ」などと言えるじゃないか。

 なんて思いながら賑わう街を歩いてみるけど、ホント言うと少し心が寒い。

 何の気なしに昨日と同じルートを歩いていた僕は、広場が見えた所で足を止める。

 そこには昨日と同じようにあの少女がいた。

 まさかずっと立っていたわけじゃないだろうけど、一体何をやっているんだろう。

 ぼんやりと眺めていると、少女はこちらに気が付いたように微笑みかけ、また樹の上を見た。

 あまりに普通の笑顔だったので、僕は少し警戒を解いて少女に近づく。

 少女に忍び寄るみたいに後ろから近づき、彼女の視線の先をうかがった。

 樹はかなり高いので、よくは見えないが何もない。

 クリスマスには電飾されるけど、今はただ少し雪を被せた葉を繁らせているだけだ。

 何か動物でもいるのかな、としきりに目を凝らすが動いている気配もない。

 首を伸ばしていると少女が振り返り、僕に場所を空けるように横にズレた。

 あ、いや。そんなつもりは……、と思ったけど僕の為にわざわざ空けてくれたのに悪いか。

 それに、そこからなら何か見えるのかもしれない。

 僕は少女の隣に立ち、同じように樹の上を見る。

 やはり何も見えない。むしろ角度がより上になって見難みにくいくらいだ。

「何があるの?」

 僕は思わず聞いた。

「見えない?」

 少女は宙を見つめたまま応える。

 何が見えるんだ? と必死に目を凝らすが何も見えない。

「何も見えないよ。何かいるの?」

「妖精」

 妖精……、を探そうとしてハッと少女を見る。

 やっぱりアブナイ子かな……、と彼女から少し離れる。

 というより、こうやって通行人をからかっているんだろうか。

 訝しげに少女を見るが、彼女は気にした様子もなく樹の上を見つめている。

「人は死期が迫ると妖精が見えるようになるんだよ。キミに見えないなら、それはいい事よ」

 この子にはその妖精とやらが見えて、死期が迫っていると言うんだろうか。

 確かに病弱そうではあるけれど、この寒い中平然と外に立つ少女に死期が迫っているようには見えない。

 むしろもう死んでいて、僕が幽霊を見ているんだとした方がまだ真実味があるくらいだ。

 または僕が夢を見ているのか。

 これ以上変な事を言われる前にこの場を去りたかったが、話しかけておいて突然立ち去るのも変な感じだ。

 何か一言残してから去るのがいいんだろうか。でも何と言えばいいんだろう。

 それにこのまま立ち去って明日の朝事件になっていても後味が悪い。

 居心地悪く少女に視線をやるが彼女は一心不乱に樹の上を見つめている。

 少女の体に雪は付いていない。つまり出てきてそう間もないと言う事だ。

 きっと近くの店の子か何かで、そのまま出て来ただけなんだろう。

 僕がここに立っているから、彼女も戻るに戻れないのかもしれない。

 ここは何も言わずさっさと立ち去るのが親切と言うものだろう。

 僕は足音を立てないように数歩下がって踵を返すと、そのまま何も言わず立ち去った。

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