Fairy Snow Xmas
九里方 兼人
あと6日
僕は足跡の付き始めた地面を踏み
あと一週間でクリスマス。
彼女イナイ歴十六年の僕は、着実に一人クリスマスの記録を伸ばしつつあったのだけど、今年遂に記録保持者を卒業する事が出来たんだ。
そう。僕にも彼女が出来た。
名はユキエ。
クラスメートが珍しく遊びに誘ってくれた集まりの中にいた。
クラスの女子の友達で、学校は別なんだけど皆とは顔馴染みのようだった。
よくやけた肌に茶色に染めた髪。くりくりした目に大きな胸。くびれた腰にスラリと長い足。
それらを惜し気もなくさらけ出し、どんな相手にも明るく接した。
もちろん僕にも。
都合良く二人になった時にダメ
当然のように断られると思っていた僕は完全にパニックに
それがつい先日の事。
『ごっめ~ん。急に外せない用が出来ちゃってさぁ』
こういう時、外せない用って何? とか問い詰めちゃいけないとモノの本で読んだ事がある。
焦るあまりに一度もデートせずに破局……、とかいかにも僕らしい結末だ。
ここは男らしく懐の深い所を見せなくては。
彼女は人気者なんだ。そもそも僕なんかがデートの約束を取り付けるだけでも奇跡なんだ、と早くもカップルで賑わう白い街を一人歩く。
こうしていると、やはりあれは夢だったんじゃないだろうかと思う。
彼女が欲しいと思い詰めるあまりに、僕の脳は空想の彼女を作り出してしまったんではないだろうか。
よく小説やドラマなんかで、主人公が話していたのは現実には存在しない幻だった……、なんてオチがあって、「ファンタジーだなぁ」と笑っていたもんだけど、正直今は笑っていられない。
いよいよ僕もそっちの世界に仲間入りか?
いや、むしろ空想なら何したっていいんじゃないか? と半ば開き直って通りを歩く。
繁華街のほぼ中心に位置する広場には大きな樹が立っている。
この街のランドマークであり、クリスマスには電飾で飾られるんだ。
毎年ここへ来るのが通例だった。
待ち合わせに使われそうなものだけど、ベンチも何もないせいかあまり人がいるのを見た事がない。
今回は「ごめんね、今年は一緒にいてあげられなくて」と樹に謝っている姿を何度も頭の中でシミュレーションしたのだけれど……。
いや、今日はクリスマスまでに初デートを済ませようとしただけだ。
僕がクリスマス当日初デートだと、きっと飲まれてしまうだろう。
最悪、当日本番でもいいさ。忙しい彼女もさすがに当日はすっぽかさない。
などと思いながら樹に近づくと、先客がいる事に気が付いた。
それは少女。ユキエとは対称的な清楚な感じのする、美しい少女だ。
病的なまでに色が白く、腰まで届く長い髪も心なし色が薄く見える。
何より雪が降る季節だと言うのに夏のような軽装だ。
その服も生地が薄いのか肌が透けて見えるような気がする。
そんな美少女が樹の前に立ち、てっぺんをじっと見つめていた。
雪の妖精でも見たようにしばらく呆けていたが、はっと我に返る。
周りに行き交う人は皆彼女が見えないかのように避けて歩いていた。
そりゃそうだろう。
僕は白い息を手に吐きかけながら、通行人と同じように何も見なかったように通り過ぎた。
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