2.夕景と独白
僕は、いわゆるカミサマとして生を受けた。人間からは「アセビのおいなりさま」と呼ばれ、小さな祠ながらも信仰されていた。生まれてから何百年と経って、地球そのものがおかしくなってしまったせいか、今となっては信仰すらもされなくなり、カミサマとしての死を待つだけだった。
死を待つだけというのは面白くない。どうせなら、最後までこの命楽しみたいものだと、僕はよく人に化けて人里へ降りた。特に、人に化けて「電車」に乗るのは好きだ。いろんな人間の観察ができるし、たまに親切にしてくれる人もいる。
十八時過ぎ、学校が終わって楽しそうに話す「高校生」たちに混ざって、その子は一人、遠く離れた席でいつもさみしそうにしていた。「学校」や「会社」に行く時間に憂鬱そうにしている人間はよく見るが、家に帰る時間でここまで憂鬱そうにしている人間を見たのは初めてだった。
毎日毎日、その子は同じように暗い顔をして電車に乗る。人というのはもっと表情の変わるものだと思っていた僕にとって、その人間は不思議に思えた。
そしてその人間はある日、いつも降りる「駅」で電車を降りずに、そのまま乗り続けた。人間の目に、もはや光はなかった。
その目を見て、僕は人間に初めて自分から声をかけた。なぜだったかは、覚えていない。自分と同じ、死のにおいを感じ取ったからか、それとも人間に憐れみを感じたのか。少ない力を振り絞って人に化けて。
本当はなんだってよかったのかもしれない。きっと僕はその時、ただの興味本位で人間に声をかけたのだ。
「ねぇ、お姉さん。隣、座ってもいい?」
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