EP11.助っ人達の到着

「ルーツィエ!」

 キィンと金属同士がぶつかった高い音がして、ルーが目を開ける。そこには息を切らしたヤンとハイネがいた。

「ヤン、ハイネ、どうしてここに!?」

驚きを隠せないルーに、二人が駆け寄る。

「団長がサシャル王国海軍とコンタクトを取ってくれてな、オレらは一足先に送ってもらったんだ。とにかく、無事でよかった」

ヤンがルーを抱き寄せる。心臓が、早く波打っているのが聞こえる。少し顔を上げると、安堵した色を浮かべた顔が目に入った。

「やあやあ、まっさかここで邪魔が入るとは思ってなかったなあ」

ぱちぱちと手をたたきながらジルがこちらを見る。

「で、全員皆殺しでいいん?」

不気味な笑顔に少し、ヤンとハイネがひるんだ。

「あれは?」

「龍剣の番人」

ハイネの問いに簡潔に答える。なるほどね、とジルを見据えてハイネは言った。

「あれ?そこの銀髪の兄ちゃん、龍剣持ってるやん」

「ああ、ボクは確かに龍剣を持っている。だから何だというんだ」

「宝石は?」

ジルが尋ねる。その目に悪意はなく、おそらくは単純な好奇心なのだろう。

「ラピスラズリだ」

「…なるほどなぁ。話は聞いてたんやろ、出てきたらどうや、エタン」

“エタン”。その名前をジルが口にした瞬間、ハイネが腰に差している龍剣の宝石が強く光った。あまりのまぶしさに、目を細める。

「久しいな、ジル」

ゆっくりと目を開けると、ハイネの前に先ほどまではいなかった黒髪の男性が立っていた。

「こうやって会うのも久しぶりやんなぁ、ざっと三百年ぶりか。ところでエタン、その子はもう試練終わってるん?」

「ああ、この少年は私が認めた持ち主だ。この様子を見るとお前、また考えなしに勝負を仕掛けたな」

「当たり前やんか、勝負に勝ったほうが勝ちや。何よりステゴロは男のロマンやからなぁ」

いい笑顔で語るジルをエタンがまっすぐな目で見る。そのままエタンはため息をついた。

「まあいい、私は既に持ち主がいる身だ。当然、持ち主側につくが、それでもいいな?」

「もちろん、人数が増えようが何しようが俺には関係ない。全員叩き潰すだけや」

エタンは、そうかとつぶやいてハイネの剣の中に戻っていく。

「力だけは貸すが、あとは自力で頑張れよ」

と頭の中に声が響いて、最後にラピスラズリが少しだけ光った。

「さて、試合再開といこうやないか」

その言葉と同時に、ジルがヤンに襲い掛かる。

「龍神よ、番人エタンよ、我に力を!」

驚いたヤンの前に、ハイネが出て水魔法を発動させる。ぱしゃん、という水音を耳にとらえ、ジルが後方にジャンプした。

「小賢しい真似ばっかりしよって…正面からかかってきぃや!」

「いわれずとも!」

ヤンが銃を引き抜き、ジルに向かって打つ。リズムカルな発砲音が洞窟内に響き、ハイネが手榴弾をジルの足元に投げた。と同時に、破片が自分たちに飛んでこないように水魔法で防御する。豪快な爆発音とともに、洞窟内が煙で真っ白になる。

 これで少しは時間稼ぎになる―と確信した瞬間だった。ハイネの首に、白い腕が伸びた。刹那、ヤンがハイネを突き飛ばす。洞窟内に風はないはずなのに、ゆっくりとスモークが収まっていく。

「ヤン!」

ハイネの目の前には、首に剣を充てられたヤンの姿があった。

「三人おってもこんなもんかいな、まったく、つくづく残念しか言えん奴らやなあ」

ぎりっとヤンの首が絞められ、苦しそうな声をヤンが上げる。

「剣で殺すのもええけど、やっぱ首を絞めるのもええもんよな」

ジルがにたりとは笑う。だがその表情とは裏腹に、ジル自身は何か違和感を覚えていた。なんやろ、なんか、ルーツィエが歪んで見えるような―。そう思った瞬間、後方で僅かに水音がした。

「しまった、水鏡か!」

ジルが後ろを振り返ろうとして、ヤンの首を絞めていた手が緩む。

「ルーツィエ、行けぇ!」

ヤンの叫び声と同時に、ルーツィエがジルの真後ろに現れる。そのまま飛び蹴りが鈍い音とともにジルの頭に炸裂し、ジルが横方向に吹っ飛んで行った。

吹っ飛んで行った先で、ジルがゆっくりと立ち上がる。まだ立ち上がるのかと思いながら、ルーやハイネが武器を構えたが、その必要はないようだった。

「負けや負け、俺の負けや」

両手を挙げながら、ジルが歩いてこちらに来る。

「たしかに、仲間とのコンビネーションは見事なもんやった。体術っちゅーもんは一人だけじゃ意味のないこともある、姉貴の言葉を思い出すわ」

先ほどとは打って変わって、爽やかな笑顔をこちらに向ける。

「ほら、あんたのほしかった龍剣や、持っていき」

 ルーツィエが静かに、ジルから龍剣を受け取る。と同時に、ジルの体が少しずつ溶けるように透けていく。

「ああ、うちの団長さんが手加減した理由も今なら少しだけわかるわ、あんたら、今輝いてるもんなぁ。ええか、この先どんなことが起きようとも、決して立ち止まったらいかんで。それだけは、覚えときや」

 そう言い残して、ジルはすっと消えていった。

「ありがとう」

ルーが小さくそういうと、龍剣についたクンツァイトが返事をするように少しだけ光った。

 これで終わった―と思った瞬間、力が抜けてその場でぺたんとしゃがみ込む。今更、魔力切れが身体に来たのだ。

「おい、ルー、大丈夫か?ルーツィエ?」

顔を覗き込んだヤンの顔が歪んで見える。

「ちょっと、魔力使いすぎただけだから…、たぶん、大丈夫…。ああ、ハイネ、さっきは、ありがとね、とても、助か…た…」

呂律が回らないながらも頑張って話す。が、そこまでが限界だった。ルーの体がぐらりと傾いてヤンの腕にもたれかかる。

「あー、悪い、ハイネ。こいつ背負うからちょっと手伝ってくんね?」

ハイネが無言でヤンを手伝う。よいしょ、と言いながらルーを背負ったヤンは、少しだけほっとした顔をした。

「ハイネ、ありがとう」

そういわれたハイネも、安堵とうれしさを混ぜたような、そんな顔をした。

 二人でゆっくりと歩きながら、出口に向かう。外はすでに明るく、出口から洞窟内に向かって朝日が差し込んでいた。

「ヤン、ハイネ、ルー」

丁度到着したアルが小舟から降りてヤンたちに駆け寄る。

「三人とも無事だったか…ルーは魔力切れか。ヤン、俺が代わりにルーを背負おうか?」

「いや、このままオレに背負わせてください。こいつには、たまには人に頼るってことを覚えてもらわなきゃ」

へへ、と嬉しそうにヤンが笑う。その顔を見て、アルもそうか、と少し笑った。


***


ルーが目を覚ますと、そこは見慣れないホテルのベットの上だった。隣を見るとヤンが穏やかそうな顔をしてベットに体を預けて床の上で寝ている。ノック音が聞こえたので返事をすると、ヴィンが部屋に入ってきた。

「お、目が覚めましたね」

おはようございますと言われて、こちらも挨拶をし返す。

「魔力の調子はいかがですか?」

「まだ完全には回復してないけど、体はそれなりに動く感じはあるかな」

「そうですか。そういえば貴女、帰りはそこの寝坊助さんに背負われて帰ったのですから、起こしてあげてついでにお礼を言っておきなさい。あとは着替えたらアルの部屋に集合ですよ。部屋はこの回の右角です」

 それでは、とヴィンが踵を返して部屋を出ていく。もう一度ヤンの顔を見て、相変わらずのアホ面だなぁ、なんて思った。そして、私がまたこいつの顔を見ることができたのもこいつのおかげなのだ、とも思った。少しだけ、ヤンの髪をなでる。さらっとした髪が指の間をすり抜ける。そして、へにゃっとした笑顔を浮かべたまま眠るヤンを見て、ルーは少しだけ微笑んだ。

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