EP2.そして、新たな旅路へ

「えーと、とりあえず今回みんな無事でよかった!」

アルが発泡酒を上に掲げ、音頭をとる。

「今日のことはとりあえず明日考えよう」

それじゃ、と発泡酒がなみなみと入ったコップを持ち上げて乾杯をしようとするアルを不服そうにヤンが見上げ、思わずアルが手を止める。

「団長、他に言うことないんスかぁ?」

食べ盛りの十八歳の目に、アルは逆らえなかった。アルが少し考え、コップをテーブルの上において財布の中身をのぞき、そのまま少し困った顔をして財布と相談をする。数十秒後、決意したかのようにアルは顔を上げコップを再度持ち上げた。

「よし…今日は俺のおごりだ!みんな好きなだけ食え!」

その言葉にヤンとフィネの顔が一気に明るくなった。そして一番顔が明るくなったのはこの団で一番の酒飲みのヴィンであった。

「乾杯!」

カツンと、それぞれに発泡酒、紅茶、ジュース、蒸留酒などが入ったコップがぶつかる。そしてそれぞれがそれを一気に飲み干した。

「で、団長、俺たちをここに読んだのはそれなりの理由があるんスよね?」

ヤンがアルの隣に座って発泡酒を注ぎ足す。

「まあな。あとでみんなにも知ってもらわなきゃならないから…おいヴィン、飲みすぎるなよ!」

了解です、とヴィンは言うが、あれはすでに大分酔っぱらっている爽やかな笑顔だった。これはもう俺から話した方がいいだろうな、とアルはその笑顔を見て冷静に判断した。

「みんな、ちょっと聞いてくれ。」

アルが再び立ち上がり、全員の視線を集める。

「俺たちの住むこの世界、ルミナの各地域から集まった騎士団は二年前の侵略戦争、異界にあるシュヴァルツ帝国から来た侵略者たちを退けた。」

団員達が誇らしげにアルを見ていたが、ヴィンだけは先に事情を聴いていたため、少し真剣なまなざしでアルを見ていた。

「そしてシュヴァルツに通じる穴を閉じた…が、今現在、また別の穴が他の場所に開こうとしている。しかも複数だ。」

何も事情を知らずに来ていた四人は驚きの表情を隠しきれなかった。

「サシャル、クライシス、ラクレイア、フィリアル。」

ヴィンがその穴が開きかけている地域を一つ一つ言っていく。

「アルザイル、そしてここ、フューリア。さて問題。なぜ敵はわざわざこの六か所に穴をあけたのでしょうか。」

真面目な顔をしながらも酒で上機嫌なヴィンがいつもならありえないくらいの軽い口調でそう言う。しばらくして、控えめにヘクトが口を開いた。

「龍剣―ドラゴンソード―だね」

その答えにヴィンがほほ笑んだ。

「さすが、魔導書を読み漁ってるだけありますね。」

その言い方には若干棘があったが、ヴィンが酔うとこれはよくある事になるので、ヘクトはとりあえず、ほめ言葉としてありがたくその言葉をもらう事にした。

「そう、この六つの国には古代の武器、龍剣が眠っています。それを敵に奪われないようにするには…」

「さきにこっちが奪えばいいんでしょ。」

フィネがあっさりと言ってのける。

「そんなの簡単じゃない。だから私たちはここに集まった。一刻も早く龍剣を手に入れるためにね」

「確かにそれはそうだが…」

フィネの言葉にアルが反論しようとする。

「それは簡単に言えば、の話で、実際はもっと複雑だ」

「もうそんなのどうだっていいじゃない?」

アルが小難しい話を始める前に、ルーが話に割って入った。

「つまり目的は龍剣を敵よりも早く集める事!そうでしょ、アル。だいたい、この人たちにそんな小難しい話をしても無駄だと思うよ」

この人たち、というのはもちろんフィネとヤンのことだが、二人はまったく自覚がないらしく、首をかしげるだけだった。

「じゃあ、目標は『敵よりも早く龍剣を集める事』だ!」

アルの声が居酒屋に響き渡る。


【これからの未来がどれだけ辛くても、

どんなに絶望に染まっていても、

みんなこの時だけは、世界を救うという事に、

希望を持っていたかったんだ】

  

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