3
ということで、
「適当に座ってください」
菫がそう言う。菫の座っている椅子の前にある机の上には、大量の資料が置かれていた。その間から覗く白い手肌が、曲線美を描いていた。
雲雀とチトセは、菫に言われたとおりそこにある高級そうなソファに身を埋めた。その感触に、雲雀は束の間の幸せを感じた。
「被害者のことについてもう少し詳しく話しますと、二日前の夜に歩道で倒れているのを発見されたそうなんです。死因は刺殺。心臓を刃物で一突き。だそうです。それで、この手配書のことなんですが」
菫は少し眉間にしわを寄せながら言葉を続ける。
「刑事さんの話では現場近くに居た不審者を、近所の人が見たという証言があったそうです。黒い外套を着ていて、何かかわった刺繍の入ったズボンを履いていたと。それで調べたところ、最近この辺りをうろついている竜人族の男がいることがわかったの」
「それが、俺か」
「そうですね。今のところそれが、私が情報屋から仕入れた情報ですね」
チトセがため息を吐いた。なるほど、チトセの履いているズボンには小さい人と森が渦巻のようになっている刺繍が施されている。
「とんだとばっちりだぜ」
「私は、あなたが嘘を吐いているようには見えません。なので、もう少し調べてみることにします。あなたの言う、小太りの男のことも気になりますしね」
「ああ。頼む」
チトセは、菫に向かって軽く頭を下げた。
「ところで菫さん。この書類、整理しないんですか」
雲雀はどうしても気になるので菫に尋ねる。助手なら、そういうこともしないといけないのだろうか。と思ってのことだ。
「すみません。お願いしてもいいですか」
遠慮がちに菫が言う。雇い主なのだから堂々としていればいいのにと思わなくもないけれど、これが彼女なのだろう。
「はい。頑張ります」
雲雀はそう言って、腕まくりをしてみせた。しかし、正直なところ掃除は得意ではない。そのことを悟られないようにゆっくり作業することにしよう。雲雀はそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます