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シーン7

 

 

 

 

 

 

 思い出した。

 全部思い出された。

 

 現実のこと。

 夢のこと。

 

 死のうとして、手首を切ったこと______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___知ってる?___

 

 ___夢のなかでも死ねるんだよ___

 

 ___死神が来るんだよ___

 

 ___その鎌に狩られれば___

 

 ___死ねるんだよ___

 

 ___おめでとう___


 ___おめでとう___

 

 ___おめでとう、美空___

 

 私の身体を揺する小さきモノ。

 死を望んだ私に味方する小さな妖精さん。

 

 ありがとう?

 いいや、このやろう。

 

 最後にいい夢魅せられた。

 

 『お姉ちゃん! 今日はどこ行く!?』

 

 英枝。

 私の妹、私の半身。

 

 『大好き! お姉ちゃん!』

 

 知ってるよ。私も大好き。

 

 『お姉ちゃん!』

 

 お姉ちゃん、壬空お姉ちゃん。

 

 もし。IF。

 私にもこんな現実が送れるなら・・・

 

 

 未練が出てきてしまった。夢を見てしまったから。

 

 死にたい筈だったのに、生きたいと思わせられてしまった。

 

 人生はこんなに素晴らしい。

 人間はこんなにも暖かい。

 

 でもいいや。

 私には無理。

 美空には出来ない。

 私の身体を、心を愛してくれる人などいない。

 

 友達もいない。

 恋人もいない。

 携帯もない。

 趣味もない。

 

 母親には置いてかれ。

 父親の愛玩具。

 

 

 ___違う___

 

 「うううん、違わない。」

 

 良かった、死際に聞こえた声が"アイツ"じゃなくて。

 

 「起きて、壬空。着いたよ。」

 

 私は目を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 「怪我はないかい、壬空・・・」

 

 「九十九さん・・・」

 

 どうして、彼が私をおぶっているのだろうか。

 私は"死神"に殺されたはずなのに、望み通り・・・

 

 「どうして・・・」

 

 九十九 元さん。

 私の彼氏、"夢の中"の彼氏。

 現実にはいない。理想の彼・・・

 

 「壬空ちゃんを助けてくれたんだよ。」

 

 ナオミンさん。

 夢の中で私を導いてくれた人、人型ミサイル。

 

 ああ、どうやらまた死にきれなかったようだ。

 

 「ほら、これが切符だ。ワシのミサイル。」

 

 「ありがとうございます、マントル博士。」

 

 九十九さんの背中に乗る私の目には、古ぼけた白衣に身を包む老人が、ナオミンさんにボロボロの切符を渡していた。

 

 「時間がないぞ、ナオミン。奴等はキーを手にいれた。

 地球を木端微塵に滅ぼすための主砲のエネルギー源・・・

 主様の妹子をなぁ。」

 

 「博士!」

 

 キセルを吹かしながら、マントル博士は呟いた。

 主様・・・妹子。

 

 「・・・そうですね。夢の博士・・・貴方も、私の世界の登場人物。」

 

 「壬空ちゃん・・・」

 

 ナオミンさんが哀しそうな目を私に向ける。

 私を必死に守ってくれたナオミンさん。

 でも、いいの。もういいの。わかったから、貴女たちが私の妄想ということも。

 

 私を守らなくていいの。

 

 「どうして、救うの。私なんかを。」

 

 「それが私の使命だからだよ、壬空ちゃん。」

 

 「そう私が夢見たからでしょう、ナオミンさん。」

 

 「違うよ・・・壬空ちゃん。」

 

 「そうだよ、ナオミンさん。もういいよ、助けなくて。

 下ろして九十九さん、後は勝手に死ぬから。」

 

 嫌な私、彼等の気持ちも知らないで。

 でもこれが現実のミソラ。長谷川美空は誰にも救えない。

 穢れて、犯されて醜く転んだシンデレラ。

 ヒロイックな気持ちを胸に私は死ぬよ。

 私が望めば、また死神が来てくれるでしょう?

 

 「聞こえた? 九十九さん。私の理想的彼氏さん。下ろしてよ、汚れるよ? 私なんか背負い続けると、汚いよ・・・私なんて好きになられる資格はないの・・・」

 

 「・・・。」

 

 九十九さんの大きな背中を私は叩く。

 言うことを聞いてよ、私の彼氏。

 主様が望んでるのよ。

 

 それでも、九十九さんは私を下ろしてくれない。

 

 「ワシはどちらでも、いい。

 どうせ、消えるのだからな。お前たちが土星の奴等を倒し、その娘を現実に戻しても。

 奴等が主砲を放ち全員死んでも。変わらんからな。」

 

 え? 何て言った。

 現実に戻る、私が夢から覚める?

 

 嫌だよ、そんなの嫌だよ。

 

 「後はその娘の心次第。"日記"は心に収まった。」

 

 マントル博士が去っていく。

 汽笛が聞こえた、鉄道の出発を知らせる。

 

 「下ろしてよ、戻りたくないよ。戻りたくない、戻りたくない、戻りたくない・・・ねえ、言うことを聞いてよ!

 九十九さん! 私の夢なんだから!」

 

 彼の背中を叩く、叩く。

 戻りたくない! このまま死なせて!

 

 「ナオミンさん、行こう。」

 

 「・・・う、うん。」

 

 九十九さんはそう言い、歩きだした。

 力なく叩く私を背負いながら・・・

 

 「下ろせ! 下ろせ! 死なせろ! 死なせろよ! 死なせてよ・・・

 お願いだよ、九十九さん・・・殺してよ、このまま。」

 

 九十九さんの背中が歪んで見える。

 酷い彼氏、主の命を無視して。

 泣いてる彼女を離してくれない。

 

 「九十九さん・・・九十九さん・・・」

 

 叩き疲れて、彼の肩へと頭を置く。

 どうして? 私の言うことを聞いてくれないの?

 そう耳元で呟いた。

 

 「・・・君が好きだからだよ、壬空。」

 

 九十九さんは、そう言い。震える私の唇を塞いだ______

 

 

 

 

 

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