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シーン5

 

 

 

 

 地表は、土星人たちに支配された。

 鉄をもバターのように溶かす高熱レーザー銃。

 核ミサイルをも防ぐゴボウ型宇宙船のバリアー。

 

 地表を支配していた人間たちは、土星人たちの攻撃になすすべもなく敗れた。

 草木は焼け、動植物は死滅する。

 辛うじて攻撃から逃れた人間たちも、いずれは赤い瞳に見つけられ殺されるであろう。

 

 土星人たちの地球侵略は"ついで"。

 自分達を滅ぼせる唯一の力を奪うための手段に過ぎない。

 太陽系において絶対的力を持つ、太陽と月。

 太陽は近寄る全てを滅する熱と光を、月は太陽の光を反射し、全てを照らし映す全能の鏡。

 

 その鏡に映され、月の力を宿す1つの"アーク"が地球にあった。

 その"アーク"を奪えば、憎き月をも滅ぼす力となると、土星人たちは信じ、地球へと侵略を始めたのだ。

 

 土星人のリーダーは、アークを探知するレーダーを使い地表のありとあらゆる場所を調べたが、見つからない。

 

 ならば、地表にはない。

 自分達が小さな島国を滅ぼす中、一瞬レーダーに強い反応を感じたが、途端に消えた。

 まるで空か地へと逃げるように。

 空は我々が支配している・・・ならば地か。

 

 土星人のリーダーは、母船に搭載したレーザー砲で小さな島国に大穴を開けた。

 その大穴から、全土星人が下りていく。

 地下へ地下へと______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 降りろ! 降りろ!

 壬空は、そう叫んだ。

 叫ぶことしか出来なかった。

 かつて自分を抱き締めた腕を肘掛けに。

 健康的な小麦色の胸板も見る影なく真っ平ら。

 黒河四之はサーファーだった。

 大学1年生の壬空が、湘南の浜辺で出会った男の子。

 対照的な白い歯を魅せる彼の笑顔が好きだった。

 

 「ルーベル・・・ルーベルルーベル。ルーベル、ルーベル。」

 

 「黙れ! 糞野郎! 黙れぇ!!」

 

 壬空は目を真っ赤に充血させ、赤の女王の冷酷な瞳を射抜く。

 その椅子・・・四之さんから退け! と、今にも女王へと飛びかかろうとする壬空をトランプ兵たちが割ってはいる。

 

 「キング、ハート、スペードのエース!?

 只の紙切れが人間様に楯突くか!

 火だ。ナオミンさん! 火を出して奴等を焼き殺せ!!」

 

 「落ち着いて壬空ちゃん! いま、狙いを定めてるから!」

 

 狂犬の様に犬歯を剥き出す壬空の表情にナオミンの構える右手の平がぶれる。

 人間は怖い、憎悪に歪んだ人間の顔ほど醜いモノはない。

 人造人形ミサイルのナオミンには、人間の感情の高ぶりが理解できない。

 先程まで赤の女王を恐れていた壬空は、女王の腰掛ける人間椅子を見て表情を一辺させた。

 

 「撃てぇ! 早く! ナオミン! アイツの身体を消し飛ばせ!

 紙切れたち共々、四之さん共々! あの仮面を焼き滅ぼせ!」

 

 壬空の声に興しだように、手にもつ日記が突然発光する。

 強く強く、輝く光が女王の間を包み込み・・・

 

 「憎悪、憎悪。

 悪と正義は表裏一体。私にとっての悪は、奴等の正義。

 私の拳は正義を滅ぼす。赤と白に染められて叩き磨かれたピンクの拳。

 呼ばれて現れ、神出鬼没の格闘家。

 ピンクパンダー見参!」

 

 光が収まると、壬空の前に二つのシルエットが現れた。

 

 1つは名乗りを上げて、形作られ。

 全身をピンク色の体毛で覆う、二足で立つ巨大な熊・・・否!

 目もと周りと丸い尻尾だけが白の体毛で覆われた熊もとい、パンダ。

 ピンク色のパンダ。ピンクパンダーである。

 

 「私は、童貞です。

 今年で45になります。右手も左手も恋人にせず欲求に耐えること45年。私の欲は内なる力へと昇華され、賢人、賢者の魔力を創りあげた。組分け帽子も判別不能の魔法使いと相成った。

 赤の女王覚悟せよ! 私の友人マッドハッターの借りを返す時!」

 

 ぼろ切れの様な麻を纏い、捻れた木杖を掲げてもう1つも形作られた。

 軽く振るった杖の先から躍り出た炎がトランプ兵たちに火をつける。

 炎の魔法を操る男、魔法使いである。

 

 「・・・はい?」

 

 「これは日記の力なの?」

 

 日記の放つ光の中から突如現れ、囲むトランプ兵たちへと攻撃をくわえる2体。

 ピンクパンダーは、文字通りトランプ兵たちを千切っては投げ千切っては投げ。

 魔法使いの構えた杖から放たれた炎の竜がトランプ兵たちを炭へと変える。

 

 「お姉ちゃん!」

 

 「英枝・・・!?」

 

 赤の女王が鎮座する玉座の後ろの窓を突き破り一匹の巨大な揚羽蝶が飛び込んだ。

 巨大な揚羽蝶・パンデモニウムに股がり飛ぶ英枝であった。

 

 「英枝!」

 

 「パンデちゃんが助けてくれたの!」

 

 壬空とナオミンの前に降り立つ蝶に駆け寄り、蝶に股がる英枝を抱き締める壬空。

 

 「ごめんね、ごめんね。英枝。怖かったよね・・・」

 

 「うううん、平気! トランプさんたちはみんなパンデちゃんの鱗粉で追い払ったから!」

 

 ___壬空、ナオミン___

 

 「ありがとう、パンデモニウム。妹を守ってくれて・・・」

 

 抱擁する姉妹、炎と千切られたトランプで荒れる玉座の間。

 ナオミンは構えた腕を下へと下ろす。

 

 「今のうちに逃げるよ! 二人とも! パンデモニウム!」

 

 「ルベール!」

 

 ダンッ!

 それまでトランプ兵たちが破れ散るのを静観していた赤の女王が突然立ち上がった。

 立ちあがり、真っ赤な剣を手にとって1歩1歩玉座の階段を下りていく。

 

 「ナオミン!」

 

 「ウェイト! 待って! チャージ中なの!」

 

 赤の女王の強烈な冷たい殺気の籠る仮面の下に隠れた瞳が、壬空たちへと近づいてくる。

 

 「そうはさせない、笹団子!」

 

 「その剣の赤を増やさせぬぞ、女王!」

 

 「パンダだ!」

 

 「ササッ! 日記の姉妹よ! 此処は我らに任せろ!」

 

 「ピンクパンダー! 魔法使い!」


 「構うな、姉妹。女王を止めるのが私の宿命。

 感謝するぞ姉妹、お前たちの呼び掛けで友の仇を討てる機会が巡ってきた!」

 

 「チャージ完了! いくよ壬空ちゃん、英枝ちゃん!」

 

 女王の剣を止めるように初瀬川姉妹の前にピンクパンダーと魔法使いが入り込む。

 

 「しっかりパンデモニウムに捕まって! 落ちるよ!」

 

 「落ちるって何処に!?」

 

 「地獄っ!!」

 

 ナオミンが下へと向けた手の平から放たれたナオミンキャノンは、床を突き破り、地面を突き破り、女王の城の真下へと大きな穴を開けた・・・

 

 「え? え!?」

 

 「紐無しパンジー!」

 

 「いんや! スカイダイビングさ!」

 

 穴の真上にいた壬空たちは、そのまま穴に落ち、真っ逆さまに落ちていく。

 

 パンデモニウムに捕まる英枝と、ナオミンにしがみついた壬空は。

 重力に逆らうこともなく、下へ下へと・・・

 

 地獄目指して直立直下______

 

 

 

 

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