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シーン4

 

 

 

 

 

 知念三治。享年 31歳。

 

 ___首から下が先に逝ってしまったので、本人は話せません___


 壬空とは、彼女が大学に入学してすぐの合コンで出会った。

 "前回の反省"を踏まえて大人の男性との恋愛を望んだ壬空にとって、三治は理想的な男性だった。

 パブリックとプライバシーを持ち、寡黙で落ち着いた雰囲気の三治。

 壬空の孟アタックの末に、付き合い出した二人だが。

 2週間後、1度のデートもせずに破局。

 時間が合わなかったのが1番の理由で唯一の理由。

 

 LINEの返信も遅いしね。

 

 三治の首は妖精の頭に乗せられ、光の中へと旅立った______

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗く、狭い、水のなか・・・

 壬空は眠り続けている。

 身体を丸めて、収まりよく。

 まるで、羊水に浸かる胎児のように______

 

 

 ___起きて、壬空___

 

 『おはよう。』

 

 壬空に呼び掛ける声が1つ。

 意識朦朧な壬空は素直に受け答える。

 

 ___おはよう、壬空___ 

 

 『あと・・・5分。』

 

 ___遅れるよ___

 

 『私の足にはジェットが付いてるから平気だよ。』

 

 ___ついてないよ、人間だもの___

 

 『違うよ、時間を止めれる最強生物だよ。』

 

 ___嘘吐き___

 

 え?

 だれ?

 声が変わった、一人から複数に。

 包み込むような声から、突き刺す吹雪の声たちに。

 

 ___何も止められない、壬空には___

 

 ___止まったのはお前だ___

 

 ___諦めたのはお前だ___

 

 ___受け入れたのはお前だ___

 

 五月蝿い・・・黙れ。

 

 ___黙らないよ、貴方がいる限り___

 

 ___貴女のせいだよ___

 

 ___私たちがいるのは___

 

 だから、誰だよ!!

 

 壬空は腕を開き、目を開き暴れだす。

 閉じ込められた、居心地の良かった空間から脱出するために。

 

 ___痛い___

 

 『出せ! 出せよ!』

 

 ___もう少し待って___


 『出せーー!!』

 

 壬空の前に光が射す。

 その光に向い、迷うことなく壬空は身体を泳がせていった______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「モーニングショット (物理)!」

 

 「グギャァ!!」

 

 壬空の意識は、頭に感じた鈍痛により覚醒させられる。

 

 「英枝か!? 」

 

 「英枝だっ!」

 

 「お休み!」

 

 「また明日!」

 

 「ヘイヘイ! 初瀬川姉妹! 寝ちゃダメだよ! 泥んこになるよー。」

 

 「へ?」

 

 初瀬川家の朝の風物詩@ホーム・・・ではない。

 何処だここは?

 英枝に足払いをして、自身もろとも倒れこんだ地面は初瀬川家の庭ではない。

 つい先程、茶色の異星人に汚された庭ではない。

 

 「花畑・・・?」

 

 ガバりと顔を上げ辺りを見渡す壬空の目には、1面の草花、緑と赤の草原。

 紅い薔薇に、紅いチューリップ、紅いパンジー・・・

 

 「ここはwhere?」

 

 「私はwho? ねぇねえ、ナオミン。本当に此処が地中なの?」

 

 「地中!? 空があるのに! 息できてるのに!?」

 

 地中、地面の中と書いて地中。

 またして奇天烈なワードに開いた口が閉じない壬空。

 

 「そう地中。正確には地面の下で、地獄の上だね。」

 

 ナオミンの説明に更に困惑する壬空。

 

 「私たちはどこへ向かってるの・・・・・・確か。 」

 

 壬空は目が覚める前、自分の意識が飛ぶ前を思いだろうとする・・・

 

 ___壬空___

 

 「パンデモニウム?」

 

 壬空が思考を遡るのことを"止める"かのようにパンデモニウムが壬空の頬に口を寄せる。

 

 優しく、暖かく。

 大きな揚羽蝶に寄り添われ壬空は考えることを止めた。

 

 まあ、いいか。何があっても。これ以上オカシイ事態は早々起きないはず・・・

 

 「私たちはマントル博士の住む地球のコアを目指しているんだよ。」

 

 ナオミンの説明を取り合えず真剣な面持ちで聞く壬空。

 英枝は壬空が起きる前にある程度聞いたので、パンデモニウムとともに花畑を走り回る。

 

 「君たちの日記に宿った力・ムーンライトを利用した兵器を開発している人だよ。そのエネルギー源が力を宿した日記が必要とする。皮肉だよね・・・」

 

 「つまり、私たちがこの日記をマントル博士の所へ持っていけば、全てが解決するのね?」

 

 それで終わる。

 それだけわかればいいか。

 

 「そう! 物分りがよくてナオミンは助かるよ! 壬空ちゃん!

 ただ、そこまでの道のりがちょっとね・・・」

 

 「道のり・・・ていうか今いるのは地中って言いましたけどどうやって地中に来れたんですか?」

 

 「掘ったよ足で。」

 

 「どうやって!?」

 

 地面を掘る、足で。しかもおそらく数百メートル。

 人間には無理難題である。

 

 「ふふん! 何を隠そう私ことナオミンは、マントル博士に作られ、ムーン様に命を吹き込まれた人造人型ミサイルだからね!

 何でも壊せるのさ!」

 

 ミサイルと聞いて、少し距離をおく壬空。

 

 「ちょちょい! 分かりやすく引かないでよ! 傷つくよ!」

 

 「ごめんなさい。興奮しないで、爆発しないで・・・」

 

 「しないよ! したら私も死んじゃうじゃん! 爆発は最終兵器だよ!」

 

 「そうなんですねー。」

 

 理解は止めよう理屈はないのだ。

 

 「急ぎで掘っちゃったからね。辿り着く場所を誤ってしまったけど・・・」

 

 「誤った?」

 

 「そう誤った・・・本当は直接地獄まで行きたかったんだけどね。」

 

 「嫌だよ、地獄なんて。避けていこうよ。」

 

 「ムリムリ! 地球の構造は・・・地上→地中→ホニャラララ→地獄→コアだからね。地獄は避けて通れないよー。」

 

 「ホニャラララってなに? 今いるのがホニャラララなの? なにそれ怖い。」

 

 「そう! 運が悪いことに最悪のホニャラララに辿りついてしまったけど・・・これも日記のせいなのかも・・・」

 

 ナオミンの顔に影が差すのを壬空は、不安げな気持ちで受け止める。

 

 「ナオミンさん、貴方が頼りなんですから・・・」

 

 「まあ、最悪。最終兵器を使えばいいから・・・」

 

 「諦めてるじゃないですか!」

 

 ドジっ子には慣れっこだ。

 英枝はあんなのだし。

 ただ、時と場合を判断してドジってもらいたい・・・

 

 「きゃぁああー!」

 

 「英枝!?」

 

 英枝の悲鳴が花畑に響き渡る。

 続いて足音。聞こえる声、声、声。

 

 「赤の女王! 我らが主!

 主の庭に侵入者!

 捕らえろ! 犬をつれてこい!

 女王に逆らうものは、みな死刑!」

 

 大量のトランプ。

 手足の生えた歩くトランプたちがクローバーの切っ先の槍を持ち、英枝とパンデモニウムを取り囲んでいた。

 

 「ナオミン!?」

 

 「今は逃げるよ、壬空ちゃん。」

 

 英枝たちを救いだそうと駆け出した壬空の手を掴み、ナオミンは空へと大きくジャンプした。

 足からジェットを噴射させ、高く高く。

 トランプ兵と、英枝たちが遠く離れていく。

 

 「赤の女王、我らが女王。庭の花木はよく育つ。

 人血吸ってよく育つ。根から流れ込む血は眠りにおちる。

 幹の中で、人血は立ったまま眠っている。」


 トランプたちの群歌が響き渡る。

 赤い線が二つの点を囲い込み・・・

 やがてその姿を隠してしまう。

 

 「英枝が! 助けなきゃ! ナオミン離して!」

 

 「ダメだよ! 壬空ちゃん! トランプ兵に逆らっちゃ!

 彼らは兵隊。この花畑・・・赤の女王の地を守る只のトランプ。赤の女王を倒さない限り止まらない。

 大丈夫だよ、壬空ちゃん。

 赤の女王は自分の目の前でしか殺さないから。」

 

 「大丈夫じゃないじゃん!」

 

 「だから英枝ちゃんたちより先に行ってしまえばいいのさ、女王のところへ・・・」

 

 ナオミンはそう言い壬空を連れて地中の空を飛びすすむ。

 赤の花畑を離れ、

 赤いワニたちが生息する沼を越え、

 赤の城を目指して・・・

 

 「赤の女王・・・?」

 

 「そう。地中の下、ホニャラララにおいて最悪の領地。

 冷酷で残虐無道な女帝の治める地・・・私たちはその領地に運悪く降りたって、もとい掘りたってしまったんだよ壬空ちゃん。

 どんな理由であれ、偶然であれ、必然であれ。

 赤の女王は自分の庭へ足を踏み入れた者を許さない。

 トランプ兵に四肢を掴ませ、四方へ引っ張り曲げ折り、潰し。人体ショットガンシャッフルの刑に処すのさ。」

 

 「信じられない・・・」

 

 「英枝ちゃんたちをそうさせないために!

 スピード上げるよ捕まって!」


 「・・・はいっ!」

 

 ナオミンの身体をガッチリ抱き締める壬空。

 ナオミンの足先から出る炎が更に威力を増す。

 壬空は目を開けるのも辛くなり、ひたすらに空を飛ぶナオミンの胸へとしがみつき続ける。

 やがて赤の女王が住まう赤の城が見えてきて、ナオミンはそのままのスピードで赤の城の城門を突き破った!

 

 「侵入者!」 

 

 突然、破壊された城内からはトランプ兵たちの騒ぎたてる声。

 ナオミンは、走り続け、彼らの振るクローバーの槍を交わし交わし、

 赤の女王が鎮座する女王の間へと一気呵成に駆け上がる!

 

 「ルーベル・・・ルーベル・・・ルーベル。」

 

 ようやく、壬空は目を開けた。

 ナオミンが立ち止まり、赤の女王と対峙したからだ。

 赤の女王は、『ルーベル、ルーベル』と同じ言葉を繰り返し、玉座に腰掛けナオミンと壬空を見下ろす。

 真っ赤なドレス、真っ赤なルージュ。

 病的なほど白い手足に赤い仮面を被る女王。

 美しく、しなやかで。

 "椅子"に肘をつき、見えぬ瞳で壬空を睨む。

 壬空の身体は途端に固まり、身動きとれなくなる。

 

 怖い、怖い・・・まるで自分の存在を目線ひとつで支配されているかのような錯覚。

 壬空は、仮面の下の女王の瞳に恐れを覚え、

 目を反らし、おもむろに女王の腰かける"椅子"へと目をやった・・・

  

 「よし、射程範囲。離れないでね壬空ちゃん。ナオミンキャノンでぶっ飛ばしてやるから・・・壬空ちゃん?」

 

 女王の腰かける"椅子"。

 それは、只の"椅子"にあらず。

 

 「・・・・・・ 四之さん?」

 

 赤の女王が座る"椅子"、"椅子"にされているのは人間。

 血を抜かれミイラになった人間の身体。所々に装飾品の宝石を埋め込まれ、

 唯一おもかげが見える顔だけは蝋で苦悶の表情のままに、固められており・・・

 それは壬空がよく知る人間の顔。

 

 その人間の名は、黒河四之。

 

 壬空の4番目の元カレであった。

 

 

 

 

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