3

シーン3

 

 

 

 反町新二。享年22歳。

 

 「初瀬川壬空? 忘れてたよ今日まで・・・・・・」

 

 ___私の彼はパイロット___

 

 ___宇宙人が来ても平気___

 

 ___私を核シェルターに連れてって___

 

 反町新二は、航空学校に通う時に初瀬川壬空に出会った。

 たった2ヶ月間の付き合いだったが、新二にとって壬空との出会いは転機だった。

 

 「同じ場所だ。俺が死んだのと、壬空と別れた場所。

 同じだった。空を飛びたいと夢見る俺と、壬空が大学進学を決意する頃。アイツは受かって俺は落ちた。俺は振られて、アイツは別の男と付き合い出した。」

 

 ___それだけ?___

 

 ___嘘つき___

 

 ___お母さん___

 

 新二は、田舎から出てきた母親と共にスカイツリーを見に来ていた。

 新二の届かなかった、届けられなかった思いが浮かぶ空。

 日本で1番空に近い場所で、もう一度決意を固めたかったのだ。

 

 「壬空ぁー!

 俺は決めたよ! もう一度飛びたいって!

 やっと向き合えたよ!

 待つのは逃げだ! 自分で掴み取れ!

 お前ともう一度空を夢みたかったから!」

 

 新二の身体が溶けていく。

 泥々の赤い液体へと溶けていく。

 "妖精たち"が繋ぎ止めていた肉体の形は崩れていき。

 

 一匹の妖精が、それを瓶に詰めて飛び去っていく・・・空へ空へと______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こんにちは・・・」

 

 ___こんにちは___

 

 「・・・。」

 

 「・・・。」

 

 初瀬川姉妹は、顔を見合わせる。

 目の前で、突如変態した巨大な揚羽蝶を前に。

 

 揚羽蝶は、ゆっくりと羽を広げは閉じ、広げは閉じを繰り返す。

 

 「パンデちゃん! おっきくなったね!」

 

 「放射能汚染キャベツだったのかな?」

 

 英枝は恐れを振りきり揚羽蝶に抱きつく。

 

 「わっ! ぺっ! 鱗粉がぁ! 目に染みるぅ!」

 

 ___ごめんね___

 

 「うううん! 大丈夫! パンデちゃん日本語上手だね!」

 

 「食べないで!」


 壬空が頭を抱えてしゃがみこむ。

 

 ___食べないよ___

 

 「食べないよ! お姉ちゃん花じゃないでしょ!」

 

 「でも、置いてこうとしたよ! 貴女のこと!」

 

 ___気にしないで、壬空___

 

 「気にすんなって!」

 

 「センクユー! わっ! 鱗粉!」

 

 壬空も揚羽蝶に抱きつく。

 頭に響く声にも、巨大な揚羽蝶にも疑問を持たず。

 初瀬川姉妹は、状況を忘れ、暫し揚羽蝶のパンデモニウムにまとわりつき・・・

 

 『ニュースです!

 アメリカ逃亡に失敗したので、働きます! 正社員ですから!

 日本国民の皆さん! 驚かずに聞いてください・・・

 ミサイルを撃ったのは北○鮮の航空機ではなく、未確認生命体の宇宙船だったのです!

 現場に繋ぎます・・・テクノ幸太郎アナ! スカイツリー前にいるテクノ幸太郎アナ! 聞こえますか!?』

 

 『はい、現場のテクノです。

 見えますでしょうか、スカイツリーに刺さった巨大なゴボウ型宇宙船が。

 先程までは、静寂を保っていた宇宙船が突然赤く発光したかと思うと、次の瞬間には中から大量の未確認生命体が飛び出してきました。宇宙船同様、ゴボウ型の。

 これは、もう侵略ですね。ゴボウ型の生命体が人々を襲い出しましたねー。

 ちょっとゴボウ型の生命体がそこで、茶髪の男を踏み殺し終えたみたいなのでインタビューしてみましょうか。

 そこの、ゴボウ生物さん、なぜ貴殿方は地球に来たのですかっ!?』

 

 『テクノアナ?! テクノアナ!? ・・・カメラが切れました・・・どうやら気にさわってしまったそうですね・・・皆さんもゴボウ型生命体に近寄るのは止めてください! 非常に好戦的な生命体のようです!』

 

 『土星人やな。』

 

 『え? コメンテーターのマッチョ松本さん、何と言いましたか?』

 

 『いや、土星人でしょ。アレは。茶色ですもん。

 次の映画に出てほしいなぁ。』

 

 『土星人のようです! 皆さん土星人には絶対近寄らないでください!』

 

 『いや、ガニメデちゃいます、マッチョさん。』

 

 『いやいや、ガニメデはタコ型やろ。』

 

 『タコ型なんですねー。』

 

 『イカちゃう?』

 

 『イカちゃうやろ。イカは冥王星やん。』

 

 『・・・今は土星人の話を・・・』

 

 『冥王星は、グレイ型やんけ!』

 

 『グレイ型は月や!』

 

 テレビのコメンテーターたちの珍妙なやり取りが初瀬川姉妹の耳に届く頃には・・・

 

 「ねえねえ、お姉ちゃん。パンデちゃん。

 何か静かになったね。ご近所さんたち。もう逃げたのかな。」

 

 「土星人って!? 馬鹿じゃない! 何で自然と宇宙人の侵略で世論はまとまってるわけ!? 頭の中までマッチョかよ!」

 

 壬空がテレビに噛みつく一方、英枝は急に喧騒を失った外を窺う。

 

 「シャラップ! お姉ちゃん! パンデちゃん! 黙らせて!」

 

 パンデモニウムは、壬空の口を優しく羽で挟み込み、鱗粉でむせる壬空。

 

 「ほら、見て誰もいないよ・・・」

 

 窓から外をのぞく英枝。

 

 「あれ? うちの庭にゴボウなんて生えてたかな?」

 

 「ゴホッゴボッ・・・ないない、私、ゴボウ苦手だし。」

 

 ___苦手だね___

 

 「ねえ、パンデモニウム。もういいよ離して。」

 

 ___壬空___

 

 「もう騒がないから、ナイトフィーバーしないから。離して良いんだよパンデモニウム。」

 

 ___暖かい___

 

 「パンデモニウム?」

 

 パンデモニウムは、薄い羽で壬空の身体を後ろから抱擁する。

 触角で壬空の頬をくすぐり、口で壬空の髪を撫でる。

 

 「くすぐったいよ、パンデモニウム。」

 

 ___ごめんね、壬空___

 

 「・・・いいよ、パンデモニウム。私も暖かいから。」

 

 パンデモニウムの羽をあやすように撫で返す壬空。

 揚羽蝶と人間。

 まるで抱き締めあうように・・・

 その二人を割くように英枝が叫びを上げる。

 

 「動いてる! ゴボウが動いてるよ!」

 

 「はぁ!? ねえ英枝いくら野菜が嫌いだからって。擬人化してまで嫌うのは、ベジラー (ケモナーの野菜版)たちに失礼だと思うん・・・だけど・・・」

 

 壬空も窓際へと近寄り外をのぞく。

 ゴボウ、動くゴボウ。

 茶色い筒状の身体を揺すりながら、ノソノソと徐々に二人がのぞく窓へと。

 近づくにつれて、ソレがゴボウではないと二人は理解した。

 赤い2つの、目。

 ささくれだと思った裂け目の奥には、鋭利な牙。

 節に見えたモノは手足であり、手には金属製の見たこともない形のピストル状のモノが握られている。

 

 ___離れて!___

 

 パンデモニウムの声が届いた二人は反射的に窓から離れた、刹那。

 動くゴボウの手から放たれた光線が窓ガラスを割るのであった。

 

 「ニュースの土星人かぁ!?」

 

 「キモい! ゴボウまんまじゃん!」

 

 ゴボウもとい・・・土星人。

 ドラム缶よりも太い筒状の身体を支える小さな足で、

 1体・・・2体・・・

 初瀬川家の庭には、気がつけば数十体の奴等が入り込んでおり、

 全体が割れた窓めがけて行進を続ける。

 

 ザリッザリッザリ・・・

 

 「ヤバイよ! お姉ちゃん! めちゃいる、ゴボウ畑になってるよ!」

 

 「土星に帰れ! うちの庭を荒らすなぁ!」

 

 野次るように声をとばす二人だが、土星人の行進は止まらず。

 家を取り囲むように二人+一羽を包囲していく・・・

 赤い目の異星人、牙を輝かせ口から液体を垂れ流す土星人。

 いつしか二人はパンデモニウムに身を寄せ、逃げることも出来ず只、侵入者たちとの縮まる距離を黙って見守ることしか・・・


 キラリと、空が輝いた。

 流れ星? いいや違う・・・

 

 ひゅーん・・・・・・ドドーン!!

 

 二人の見守る庭に降り注いだ炎、爆音。

 爆風に顔を伏せ、パンデモニウムに抱かれる二人の前に。

 

 「ナオミン参上! 月に変わってお仕置に来たよ! 土星人ども!」

 

 1面の焼け野原、もとい焼け庭。

 数十体の燃え倒れ崩れる土星人たちの真ん中で、

 "1体"の女性が両手を突き上げた。

 

 

 

 ______

 

 

 12/6

 

 

 

 

 私に優しい人がいる。

 

 初めて出来た友達。

 白い服は、貴女にとても似合ってるよ・・・

 

 

 

 ______

 

  

 

 

 

 

 

 

 「待たせたな! 運命の姉妹! 我が名はナオミン!

 ムーン様の使いにして、月面警備隊の特攻隊長!

 例えゴジ○や、○スラでも。私のスペシャルキックで一撃必殺!」

 

 未だ火がくすぶる庭の真ん中で白いラバースーツに身を包む女性がポーズを決めた。

 

 「グ○コ!」

 

 「ノン! 英枝ちゃん! ナオミン!」

 

 「だれ・・・ていうか何?」

 

 積み重なる突然の珍事災害。

 ミサイル、人間大の揚羽蝶、ゴボウ、土星人。そして空から飛来した女性。

 壬空は、クラクラする頭を押さえる。

 

 「間に合ったようだね、パンデモニウム。」


 ___久しぶりナオミン___

 

 「知り合いなの!? パンデちゃん!」

 

 「私の友人だよ! ・・・ね、パンデモニウム。」

 

 パンデモニウムは羽をはためかせナオミンへと返事を送る。

 

 「あの・・・ナオミン・・・さんというんですか?」

 

 「なんだい、壬空ちゃん。月の使者はどんな質問でも答えて上げるよ。」

 

 「あ、はい・・・ありがとうございます・・・アレを倒してくれて・・・」

 

 「土星人だね! お安い御用さ!」

 

 「なんで?」

 

 なんで?

 なんで、助けてくれたの?

 月の使者?

 なんで、月の使者を名乗る者が?

 壬空の中の疑問符は収まらない。

 

 「君たちの願い事、君たちの夢日記。それが原因なんだよ。」

 

 「え? これ?」

 

 壬空はカバンに仕舞っていた日記を手に取る。

 初瀬川姉妹の日記、不満やストレスから書きなぐった妄想日記帳。

 これがなに? 何処にでも売ってる大学ノートだよ元は。

 デ○ノートじゃないんだよ。

 

 「言い方が悪いね、君たちのせいじゃないよ。

 ムーン様が悪いんだよ、実はね。

 ムーン様の願いの光・ムーンライトをその日記が偶然浴びてしまった事が全ての元凶なのさ。

 この世に起きるあらゆる不可解な出来事。それはムーン様の光を浴びたモノによるものなのさ。

 私たち月面警備隊は、それらの後処理をする。まあ、月星人ってところかな!

 信じてもらえるかな?」

 

 「信じるも、信じないも・・・」


 説明がつかない事象有り得ない出来事の連続。

 それが全て、この日記に書かれたハチャメチャな内容のせいだと、空から降ってきたこのナオミンは言う・・・

  

 そういえば、ミサイル落ちろー

 とか。

 宇宙人の侵略とか。

 揚羽蝶の背に乗ってとか。

 色々書いてた気もするし、それ以上に異常な事も書いてた気がする。

 

 もし、この空から。月から降ってきたのであろうナオミンさんの言ってることが真実ならば。

 もういい片付けるしかない事実として。真実ならば、


 テレビに流れた人達も・・・

 八王子市に居た人達も・・・ 

 もしかして、太一(たいち)君が死んだのも私の・・・

 

 ___違うよ、壬空。貴女のせいじゃない___

 

 「パンデモニウム。」

 

 パンデモニウムの口がクルクルと伸び、壬空の頬へとキスをする。

  

 ___私たちのせい___

 

 「ごめんなさい、巻き込んでしまって・・・」

 

 パンデモニウムとナオミンは、揃って謝罪する。

 巨大な揚羽蝶と空から降ってきた真っ白スーツに身を包んだ"月の使者"が、私たち姉妹に。

 もう、わけがわからない。

 

 「そんな・・・でも・・・」

 

 わからないけど起きている。

 わからないことが起きている。

 この日記に書いた内容と類似することが・・・

 

 「ねえ! お姉ちゃん! ナオミンさん!

 今はそんな反省会を開く時なの!?

 後処理って言ったよね? じゃあ、この自体を解決する方法を知ってるんだよね?」

 

 英枝は大人たちの責任の擦り付け、もとい慰めあいを嫌い話を進めようと声をあげた。

 

 「ありがとう、英枝ちゃん。

 勿論、そのために来たんだよ! 話は道すがら話すとして、取り合えず一緒に来てくれ!」

 

 「何処に?」

 

 壬空は不安そうに訊ね、庭先へと目をやった。

 また、土星人が来たらと不安に向けた壬空の目が捕らえたのは。

 

 モザイクだった。

 

 「なに・・・あれ?」

 

 モザイク、人の形をしているが、全体が靄つき見えないモノ。

 特に顔の辺りは強いボカシが入っており、識別することは不可能である。

 

 「______その日記を持った君たちが再び願いをこめれば解決する!

 いいね、英枝ちゃん! 壬空ちゃん! ・・・壬空ちゃん?」

 

 「・・・あ・・・あ・・・。」


 ナオミンが返事なき壬空を見ると顔面蒼白の彼女が地べたに尻餅をついていた。

 

 モザイクのかかった、おそらく男。

 右手に大鎌を持ち、左手に・・・その鎌で刈り取ったのであろう野菜の様に・・・・・・人間の首を持っていた。

 その首を、識別出来た壬空を地べたに座らせたのだ。

 

 「三治君!!」

 

 モザイクのかかった男は、大鎌を壬空に降り下ろす。

 左手に掴まれた首、

 

 それは壬空の元彼・知念三治のものであった。

 

   

 

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