第30話 阿修羅ウィルス


阿修羅は、次の日研究室から出てきた。インターホンで赤城に連絡を取った。「阿修羅か、どうだ成功したか」阿修羅の声が弾んでいた。


「いいか、これから各国の女性達を出来るだけ多く集めるのだ。なるべく美人で健康的な女性をだ」突然の申し出に赤城はびっくりした。「何をする気だ」


「いいか、私の身体で変異したウィルスは、空気感染しないのだ。なぜかわからないが、変異の段階で伝染力が極端に落ちるのだ。だから性交による精液の感染しか方法がない。


これから私は、種馬のように女性にこのウィルスを感染させるために性交を繰り返す。私のウィルスは卵巣が好きなのだ」


「おまえ一人でか」「大丈夫だ、私の体力と性交能力は無限に近い。一晩で百人の女と寝ることが可能なのだ。その女が男と性交をすれば、その男達は必ず感染する。

 私のウィルスには強力な淫行増進の作用がある。感染が起これば必ず性交せずにいられなくなるのだ。鼠算という奴だ。あっと言う間に感染者は増えていくだろう。時間がもったいない。さあ、会長に頼んで女達を準備するのだ。これからが本当の戦いだぞ」赤城は、半信半疑ながらも会長の元へ走っていった。



そのころ稲川は自分の企業グループだけでこの問題を処理することは不可能だと決断し、世界のトップシークレットと会談を繰り返した。


しかし、もうすでに神々のウィルスは政界にも蔓延しているらしく、まともに話せる人物はいなくなっていた。稲川は神のウィルスの感染力のすごさを過小評価していたことを改めて認識したのだった。


阿修羅が性交渉を持った女性達は確実に阿修羅ウィルスを感染させられた。もともと美人ばかりだったが、感染後にはその美しさにひときは磨きがかかっていた。彼女たちに誘われて断る男性など世界中にだれも存在しないだろうと思われる。彼女たちは稲川の指示により世界中に配置された。


彼女たちと交渉を持った男性は、確実に感染した。感染した男性は、保菌者になりそれをまた他の女性にうつしていった。阿修羅の言うとおり、発病後すぐに強力な淫行作用が感染者には現れ、何人もの女性と飽きることなくセックスを続けていくのだ。


阿修羅の計画は順調に進んでいた。



赤城はどんなことがあっても、このシェルターから一歩も出なかった。極端に臆病なのだ。ひとりで3重に扉をつけた無菌室で暮らしていた。元々変わり者だったが、最近は特にひどくなってきたようだ。


夜が来て、完全に除菌された、レトルトカレーを食べ終わると、一人で定位置のソファーに座り、テレビをつけた。このまま、ブランディを飲みながら眠たくなるのを待つのだった。


阿修羅がつれてきた全ての女性と性交を持ち、全て送り出して、今のところするべき仕事はなかった。


赤城は、うとうとしはじめた。いつの間にか眠ったようだった。夢を見ていた。


美しい女性が現れた。彼女は彼にまとわりついてきた。強烈な刺激が下半身をおそった。赤城は彼女を抱きしめ、胸をまさぐり、パンティをはぎ取った。彼女はいやがるそぶりは見せず、積極的に赤城の言いなりになった。


赤城は勃起した、小さな陰茎を彼女の下腹部の秘所に挿入した。赤城のセックスはまるで中学生のマスターベーションと同じだった。一気に絶頂を迎えそのまま果てた。彼女は静かに去っていった。


はっとして赤城は目が覚めた。


あまりにも、リアルな夢だった。ふと見ると、赤城はズボンを脱いでおり、

性交の後のように陰茎は精液でまみれていた。


赤城は血の気が引いた。今のは現実なのか、夢なのか全く判断つかなかったのだ。これは阿修羅の仕業なのか。ドアは開いた形跡がなかった。赤城の件は阿修羅の仕業だった。


阿修羅にしてみれば朝飯前のことだ。感染者の変化を身近に見るための実験動物として赤城に感染させたのだった。赤城はその朝、阿修羅の前に顔を見せなかった。


2日目、阿修羅の部屋に赤城が現れた。その表情は、脂ぎっており、極度の興奮状態にあった。


「阿修羅、貴様は俺に感染させたな」すごみのある声で阿修羅の胸元をつかんだ。

「知らないな。おまえが勝手に感染したんじやないか」

「うるさい。俺の人生がめちゃくちゃだ。最初からお前のことは気にくわなかったんだ。悪魔の言うことなんか聞いちゃいけなかったんだ。殺してやる」


赤城は隠し持った、医療用のメスを阿修羅に斬りつけた。阿修羅は少し身体を傾けただけでかわす。トンと、赤城の手首をたたいた。赤城のメスはいとも簡単に床に落ちた。


阿修羅は赤城の襟をつかんで 耳元でささやいた。「このままだとどっちみち死ぬことになるんだ。すぐは死にたくないだろう。俺の言うとおりすれば長生きできるんだ」


その声に赤城はがっくり首を垂れた。「わかった・・・」情けない声だった。


阿修羅は続けて話す。「赤城、女が欲しいんだろう。わかってるよ。町へ出て、片っ端からやってこいよ」「ああ」赤城は、夢遊病患者のようにシェルターの出口へ向かった。



阿修羅がばらまいたウィルスは、各人に様々な変化をもたらした。最初は淫行作用により、エネルギッシュになるのだが、4日目あたりから身体に変化が出てくるのだ。それは、本人が気絶するくらいおぞましい姿だった。


コウモリの羽が生えたもの

頭にヤギの角が生えたもの


人間の身体に獣の姿が映し出された、異様な姿ばかりだった。まさに悪魔の姿だった。ウィルスの作用は基本的には神のウィルスと同じなのだが、その姿が人類の美意識と反対の方向にあるのだった。


どんな神話に出てくる怪物よりも、おぞましく醜い姿だった。これが、すぐに死なない代償なのだ。しかし、変身したもの達は、気が狂ったように騒ぎ出した。実際に狂ったものもいた。街にはおぞましい悪魔の姿をした生き物が出没するようになった。


そして世界中でも同じ現象が起きていた。全ての宗教は、神に対抗する怪物達が必ず存在していた。その姿が、まさに現実となっていた。


人類は恐怖の坩堝にたたき込まれた。まさに人類と悪魔の戦いが展開されたのだ。人類は怪物達が現れたことにより、人類史上一致団結をした。そして、神々の存在を完全に認めたのだった。


悪魔の姿に変身した一団は群をなして移り住んだ。姿は異様でも、中身は人間である。食事をしなくては生きていけないのだ。しかし、この姿では普通の店では食べ物を売ってくれるものなどいなくなった。彼らは仕方がなく、徒党を組み夜に食料店をおそったのだ。


毛むくじゃらの狼男、コウモリの羽が生えたドラキュラ、蠅男、まさに恐怖の怪物達が食べ物を求めて闇夜を闊歩したのだった。

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