第27話 神々の行進

真はその声を修行堂で聞いた。


静かに瞑想を続けていた真の心の中に「ミロク」の声が聞こえてきたのだ。


その心の声を感じたとたん、真は様々な雑念が解消していった。今まで、悩んでいたのが嘘のように、晴れやかなものが心の中に充満していた。更に使命感のようなものが芽生えてくるのだった。


一族の第2の覚醒が始まったのだ。



進化した神々は遂に行動を起こした。


それは移動することだった。渡り鳥が集団で出発するように、変身した一族の者は、何の連絡をしなくとも、研究所の玄関に集合していた。


みんな、晴れやかな顔をしていた。


今まで身体は変身したけれど、心の中は不安や恐れでいっぱいだったのだ。それがミロクの声で何かに変わったのだった。


今までの人格が一掃されて、神という自覚が芽生えたのだ。今はもう悩むものなど誰もいなかった。人に会わなくてはならない。それが使命として心の中に充満していた。


朝靄がまだ残る、すがすがしい朝だった。みんな思い思いの格好をしていた。真は一歩を踏み出した。みんなも真について歩き出した。


目的地は東京だった。


ただの行進ではない。神々の行脚だ。皆スーパーマンのような体力を持ち、身体は均整がとれ、堂々としていて神々しい。


女性は華やかで優雅に見える。色が白く、唇は赤く品よく小さめで、日本人好みの美貌だ。彼らは、植物、動物、昆虫との意志疎通も可能なのである。彼らが発する声は、独特のヘルツを持っており、様々な生物がよってくる。


彼らの回りは、蝶や小鳥、白鷺や鶴、ハトなど平和や神秘を連想させる色とりどりの動物達が彼らの回りに集まってくるのだ。テレビのディレクターに神々の集団を演出させるとこうなるだろうという見本みたいな光景だ。


昼には彼らの一団は、人通りの多い中央線の国分寺近辺の国道に出てきた。


彼らは黙々と歩き続けていた。いつの間にか、テレビ局のクルーが集まってきた。あっという間にブログやフェイスブック、ツイッターで、神の集団の写真がアップされ、話題にされている。


ネタに貪欲なお昼のワイドショーがすばやく反応していた。珍しい宗教団体の行進だったと思ったらしくコメディアンの突撃レポートの段取りを組んでいた。


「こちらは突撃レポートのラクダーズのひろしです。今朝からネット盛んにアップされている不思議な団体の行進をレポートします。 

 おっ、やってきました。やってきました。全部で30名ぐらいでしょうか。先頭には背の高い、大柄の男性が歩いています。身長は2メートル近くありそうな長身です。

 ほかの人たちもかなり体格がいいようで、スポーツの選手のようです。身なりは白い布を全員まとっています。まるでインドの僧侶がつけている衣のようです。何かの宗教団体でしょうか。もしかしたら、あのオーム教の残党かもしれません。それではインタビューしてみましょう」


レポーターは一団が来るのを待ち受け、真にマイクを突きつけた。真は、レポーターを見つけると足を止めた。そして、道の脇にある広い公園に入っていった。みんなも、同じように公園に入っていく。


真は黙って芝生の中央に座った。回りのみんなも、それぞれ色んな所に腰掛ける。休息ではなく、レポターと話をしようとしているらしい。真達が公園にいると、綺麗な鳥達が集まってくる。


まるでお釈迦様が座禅していると、森の動物が集まってくる風景に似ていた。さらに犬や、猫、りす、いろんな小動物がこの一団を慕うように遠巻きに集まっているのだ。


不思議な光景だった。


テレビ局の一団はぎょっとした。気を取り直したレポーターは、カメラが回っているのを確認すると、覚悟したように話しかけた。


「もしもし、あなた方は、どういう団体なのですか。この行進の目的は何なのでしょう」


軽薄な話し方が、いかにもワイドショー的だった。


真が口を開いた。


「私たちは、あなた方を導く者だ。私たちはあなた達を救えるだろう。私は須弥山スミセンを目指している。他の者達は、それぞれ逝くべき道を行くだろう」


須弥山とは仏教の世界説で、世界の中心にそびえ立つという高山のことだ。レポーターは大げさに驚いて見せた。リアクションのおもしろさで売っているタレントなのだ。


「なんという一団でしょうか。やはり宗教団体のようです。いっている事の意味が分かりません。

 しかし、この一団は全て美男美女なんですよね。それにこの集まっている動物達も不思議です。どういう仕掛けなのでしょうか。おや、きれいな女性がいます。ちょっと彼女に聞いてみましょう」


テレビに映らない所にいるディレクターが盛んに指示を出しているのを確認したからだ。テレビカメラが無遠慮に女性を映し出した。


顔がゆがんで写る広角レンズが意地悪くローアングルから狙っている。しかし、鼻の穴が丸見えのアングルでも、彼女がひときわは美しいことを伝えてしまう。レポーターはその美貌に驚いて見せた。


「何という美人でしょうか。こんな女性がなぜ集団の中にいるのかきいてみましょう」



「すみません。ちょっと良いですか。あなた方の団体名は何というのですか」


話しかけられた女性は涼しい瞳でレポーターを見つめた。すれっからしのレポーターが、マジでどぎまぎしている。


「私は吉祥と呼ばれています」


鈴のように美しい声だった。


「キッショウですか。不思議な名前ですね」


レポーターは、キッショウという名前に引っ掛けて、話しを渡井のほうへ持っていこうと、とっさに考える。しかし、その一瞬の間に弁天がレポーターに話しかけた。


「あなたは、悲しみを持っていますね。それは貧しさと病気でしょう」


そういうと、優しく、レポーターの目をのぞき込み、静かにレポーターの手を触った。そのとたんレポーターの様子が変わった。何ともいえない歓喜の表情になった。そして、その場にへたりこんでしまった。


スタッフの中にいたディレクターらしき中年の厳つい男が飛び出してきた。


「なにをしたんですか」


品のない荒いだみ声で吉祥を威嚇した。レポーターに危害を与えたと思ったのだ。吉祥は、静かにディレクターと6人ほどのテレビスタッフを見つめた。そして軽く手を振った。


テレビ局一団は、まるで雷に打たれたようにレポーターと同じように座り込んでしまった。まるで魔法みたいだった。その中には手を合わせて土下座をしている者もいる。


真はそんな場面を見ると、すくっと立ち上がった。そして静かに出発した。一族は、テレビスタッフを公園に残し立ち去った。

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